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2024年印象に残った作品②「伊東真由美 - 美人声」
「真夜中のドア」のカバーを収録しているということであろう、シティポップ文脈で注目されたアルバムが今年レコードで再発された歌手、伊東真由美が1992年に発表したおそらくラストの作品です。
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彼女は1980年代初頭からジャズ系ポップスグループ「白雪姫Band」のメンバーとして音楽活動を始めます。
その後1980年代後半からソロ活動を開始し、90年には中森明菜のシングル「Dear Friend」で作詞を担当しています(その後作詞家としても活動していたかは不明)。
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アルバムは三作品出していて、1st『City Cats』はキャッチーな曲やメロウなバラードなどシティポップな作風、2nd『Stay With Me』はダンスビートが前面に出たユーロビートを基調とした内容でJ POP黎明期の標準的な作品といえますが、今回紹介する『美人声』はそれらとは別の世界線にありそうな内容で、当時のトレンドからみてもなかなか異色な作品です。
化粧品広告のようなジャケットアートとアルバムタイトルは、シンプルながら強い印象を残しますが、それに加えて曲のタイトルや詞の世界観から独特のセンスが窺えます。
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パーカッシブでトライバルなイントロから転じてアーシーなファンクグルーヴが渋いM1「ドラキュラ感覚」に次いで、M3「1-23-9マンション・パラノイア」はサスペンス小説のようなタイトルに見事にマッチしたダウンテンポなブレイクビーツに語りを乗せるスタイルで、当時の J POP の分野における作品だということを考えれば結構なインパクトがあります。
特にM3は、90'sのUKの音楽トレンドの一つあった DJ シャドウかポーティスヘッドなどのトリップホップを想起させますが、時代的にはそれらより前だというのも先端性を感じさせます。
M7は先にあげた中森明菜の曲のカバーですが、中森Verを大胆に改変したレゲエのオフビートを基調にしつつプログレッシブな展開でこちらも興味深い曲です。
他は前作までを踏襲したような曲も収録されていますが、以上の曲や先に述べたことばやビジュアルの世界観などからトータルとして印象に残る作品でありました。