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リスナーとして様々な音楽遍歴を経てもなお、現在まで折につけ聴いてきた松任谷由実ことユーミンの作品について3

近年、日本の音楽における再評価としてシティポップに次いでリバイバルしている環境音楽やニューエイジをチェックしてる中で知った作品があります。

この作品は、中島みゆきや今井美樹などの作品プロデュースのほか、音楽集団、芸能山城組のメンバーとして『AKIRA』のサウンドトラックにも関わっていた、サウンドプロデューサー浦田恵司が1989年に発表したものです。
この作品の素晴らしさはここでは触れませんが、他にも彼の関わっているアーティストの作品に興味が湧いて、調べてみるとユーミン作品にシンセプログラミングとして関わっていることを発見しました。
クレジットを調べた限りでは、1981年の『昨晩お会いしましょう』から1990年『天国のドア』までその名がみられます。
ということは、松任谷時代の全盛期である10年間に関わってるということで、松任谷サウンドの要の一人であったことは間違いないのではないかと俄然興味が湧き、それに乗じて昨年より再度のユーミンマイブームがリバイバルして現在に至ります。

ところで、CD時代の作品はずいぶん前に手放していたのですが、今ではサブスクでほぼ全作品が聴けるので買い直す必要はないかなと思っていたところ、先日某本屋の閉店セールでユーミンのCDがいくつかあり、せっかくなので久しぶりに再購入しました。
多分人気絶頂の頃の作品は、熱心なファンや当時を懐かしむ世代でもなければ、今更聴き返そうと思ったり、特に音楽面から再評価的に聴こうという人はそれほどいないと思いますが、先に上げた浦田恵司が関わった最期の作品と思われる『天国のドア』が個人的に興味深く聴けたので今回取り上げてみます。

『天国のドア』

作品に入る前に、まず当時の音楽制作の環境に関して触れておきます。
1980年代に入りデジタル機器が普及し始めましたが、ユーミン作品もそれに歩調を合わせるようにデジタルサウンドが楽曲に反映されていきました。とりわけエポックメイキングだったのは、DAWの先駆けともいえるシンクラヴィアの導入だったのではないでしょうか。
シンクラヴィアはどういったものかは、以下ご覧頂けたらと思います。

スティービー・ワンダーをはじめ、日本でも小室哲哉など著名ミュージシャンが使用していたのですが、ユーミン作品では1987年の『ダイヤモンドダストが消えぬまに』から本格導入されたといわれてます。
しかしながら、80年代後半にはサンプラーやPCを使用したMIDIシーケンサーなど機能別の機器が普及をしはじめたことなどもあり次第にシンクラヴィアのシェアも低下していき、92年には生産が終了しました(近年でもアプリやハードの新機種開発が再開するなど存続はしているようですが)。また、前年の91年には現在の代表的DAWのソフトであるプロツールス(Pro Tools)の初代が登場しますが、『天国のドア』はほぼ同時期の1990年末に発表されました。
ところで、最近50周年記念のベストアルバムに関する以下の記事を読んだのですが、興味深いことが書かれていました。

『松任谷正隆氏が、(中略)シンクラヴィア時代が、特に不満だとか』

80年代はまだデジタル機器の選択肢が少なく楽曲への使用も色々と模索していた過渡期だったのではないかと想像するのですが、先程書いたように80年代末期から90年代初頭は丁度デジタル機器環境の転換点であるとともにサウンドデザインへの焦点も定まってきた時期だったのではないかと察します。
そんな中、それまでユーミン作品のデジタルサウンドに関わってきた浦田恵司が次作『Dawn Purple』以降ユーミン作品から見かけなくなるのですが、それは以上のようなタイミングが関係しているのではないかと推察するのですが、前作『Love Wars』までにみられたデジタル的煌びやかさからやや落ち着いた雰囲気があることからも感じられます。それは先述の記事からも窺える「脱シンクラヴィア」サウンドへの布石だったのではないかと。
以上は個人的な憶測に過ぎませんが、そうしたことから感じられる転換期的なサウンドが今の個人的音楽嗜好に図らずもマッチしていてとても興味深く聴けた作品が『天国のドア』です。

穿った見方というか非常にマニアックな視点というか、前置きが長くなりましたが、本作は冒頭に挙げた浦田恵司のソロ作品や『AKIRA』で聴けるような、エスノ、トライバル、アンビエント、エレクトロの要素がJポップ黎明期の当時全盛を極めたユーミン作品に見出せるのではないかと思い、いざ聴き直してみると微に細にそうしたテイストが感じられました。
例えば、イントロからタンジェリン・ドリーム(Tangerine Dream)のVirgin時代の作品を想起させる「時はかげろう」や、ミッドグルーヴにしっとりしたシンセサウンドがのる「ホタルと流れ星」、ファンキーなエレクトロトラックの「Glory Birdland」、バウンシーなダンストラックにアーバンなポップソングを融合した「Man in the Moon」などは先のテイストが感じられる楽曲として興味深く聴けました。
もちろん、シンセサウンドを巧みに取り入れたバラード「残暑」や、『DA・DI・DA』以降のキャッチーなユーミン流シンセポップの完成型といえそうな「Aはここにある」、「十四番目の月」のコンセプトをリメイクしたような「満月のフォーチュン」などザ・ユーミンサウンドを体現した曲もあり、やはりミリオンセラー打ち出した全盛期の作品だとも改めて思いました。

さて、その後浦田恵司がいなくなって以降のユーミン作品にも彼が残したのではないかと思われる要素が反映されていったことが窺えるのですが、それが一つの完成型として到達したのが1995年の作品『KATHMANDU』なのではないかと思っています。次回はその作品について、語っていけたらと思います。


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