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【創作論】小説の初稿完成、その後の磨き方いろいろ


はじめに

 こんにちは、黒崎江治です。最近は新しい長編小説(『伊勢佐木マスカレイドスクウェア[仮題]@近未来横浜)、(『塩と鎚矛[仮題]』@中世イングランド風・中世アラビア風世界)の執筆に力を入れつつ、Kindle出版した小説の売り上げを眺めています。


 本記事では新作の初稿完成が近づいてきたこともあり、思考の整理がてら、作品のクォリティアップをするための方法・着眼点を書いていこうと思います。プロットの作り方とか、基本的なテクニックとかは、すでに記事やらブログやらがたくさんあるので省略します。

 言うまでもないですが全部個人的な経験に基づいた手法なので、ひとつでも役立つものがあればいいなぐらいの気持ちで読むといいと思います。

描写を膨らませる

 SNS等の投稿を見ていると、小説の書き手には初稿を完成させてから「削る」タイプと「膨らませる」タイプがいるように思います。私は後者。量としては一、二割文量が増えるくらいの膨らませぶりです。

 じゃあ主になにを膨らませてるのかというと、主に情景描写。どこになにがあるのか、という情報は最初から書いてあることが多いのですが、それは言うなれば視覚的な情報です。でも現実世界は視覚的な情報だけで成り立っているわけではありません。

 たとえば聴覚、嗅覚、触覚、味覚……。聴覚は比較的描写が多いかな。声音とか爆発音とか。嗅覚は血のにおいとか、香水とか体臭とか。触覚は人体に触れたときとか気温とか風の感じとか、湿気を描写するときも使うかな。味覚は内臓感覚と併せて、人物の体調や精神状態にも使えます。口の中が乾いたり吐き気がしたり胃からすっぱいものがあがってきたり。

 平衡感覚を失って、足元が不確かになっている人物は、単純に回転させられたり貧血になったりしてるのではなくて、寄る辺ない気持ちになってるのかもしれません。先に述べた内臓感覚と似ていますが、神経に関連する描写によっても、人間の状態をよく表すことができます。自律神経だと心拍の増加、呼吸の速さと深さ、瞳孔の収縮、顔色(皮膚表面の血流増減)、中枢神経(脳)だと長期的な気分、短期的な感情、情報処理の速度(冴えてるとか混乱してるとか)、等々。

 もちろん詳しく描写すればいいというものでもないですが、私は情景をちゃんと見せたいとき、人物の状態にフォーカスを当てたいとき、テンポをちょっと緩めたいときに、これらの(感覚からもたらされた)情報を書き足して、文章を膨らませます。

テーマと登場人物の言動を対応させる

 作品の「テーマ」、みたいな概念がありますよね。「伝えたいこと」とか「コンセプト」とか「キーワード」でもいいんですが。私はあんまり押しつけがましいのは好きではなくて、ハイコンセプトな(≒斬新な)話もあまり書かないので、ぼんやり「テーマ」になることが多いです。拙作『蒸気機関車に竜を乗せて』だと、「(否定的な意味も含む)成長・友情」、『アブーバースの妖石術師』だと「幻想の是非」。とはいえ、意識しはじめたのはここ二、三年ですが。

「テーマ」は最初から決めて書くケースもあれば、書くうちに浮かびあがってくるケースもあると思います。私の場合は主に後者で、これが小説を書いている中で一番楽しい部分です。最初に考えていたテーマが変わってくることもままあります。

 で、そのテーマが固まってきたときに、(敵対者や脇役も含む)登場人物の言動が、テーマに対応しているか? というところを見直します。ちょっと複雑な話なので、拙作『蒸気機関車に竜を乗せて』におけるテーマのひとつである「成長」を例にとって説明します。

 この作品における成長とは、子供から大人になること。主人公のジャックラインは19歳で、肉体や精神はある程度成熟していますが、職業人としてはまだ下っ端です。子供と大人の中間くらいに位置する人物です。物語の開始時点で、彼女は成長すること=大人になることをポジティブに捉えています。でも作品の後半になると、自分を含めた人間が大人になること、世界(思考や科学技術)が成熟することに対して、寂しさや悲しさや嫌悪といった感情も抱くようになります。だから物語の前半において、ジャックラインは都市や科学技術を称賛するんですが、後半においてはネガティブ寄りの発言をします。これは「成長」というテーマに対応させた結果です。

 要するに、「この行動・発言は、テーマに対してどういう役割を果たしているか。テーマを表現するのに適切であるか。テーマに奉仕しているのか」を考えながら修正していくということです。

手癖を直す

 誤字脱字の修正とか助詞(てにおは)の確認とかは誰でもやることかもしれませんが、私が多用してしまうのは、「こと」と「よう」、それから否定形。気をつけていないと、一文にふたつもみっつも出てくることがあります。この文にも「」でくくられていない「こと」がふたつ、否定形がみっつ。頑張って消してみます。

 誤字脱字の修正とか助詞(てにおは)の確認とかは誰でもやると思います、私が多用してしまうのは、「こと」と「よう」、それから否定形。気を抜いていると、一文にふたつもみっつも出てきてしまいます。この文にも「」でくくられていない「こと」がふたつ、否定形がみっつ。ちょっと無理やりになりますが、頑張って消してみます。

 否定形がひとつ残りました。どうでしょう。あんまり変わってないか。やりすぎると不自然な文章になるので、好みとかスタイルの範疇かな。ただし同じ表現(凛とした表情、嫣然、小首をかしげる、雲ひとつない空、刃が閃く、等々)の頻出は読者に違和感を抱かせ、露骨に作品のクオリティをさげるので避けましょう。こいつ小首かしげてばっかだな、みたいな。

おわりに

 視覚的情報だけだと世界が貧しくなり、キャラクターの言動がテーマと対応していないとそれっぽいだけの借り物臭くなり、手癖が出すぎると汚い文章になる。そういう危険を避けるために、上で書いた内容を気にしてみるのはきっと無駄ではないはずです。

作品の宣伝

『蒸気機関車に竜を乗せて』

 ピーター・ポール & マリーの『パフ』を聴いたことはあるでしょうか。大人になった少年が魔法の竜のもとを離れ、竜は悲しみに暮れる……という内容の歌詞が心に染みる名曲です。この曲をモチーフにした本作は、成長と友情、懐かしい子供時代がテーマです。産業革命を経た架空の王国で、記者見習いのジャックラインと竜の双子が、四百年前にいた少年の足跡を辿ります。ヴィクトリア朝の雰囲気が好きな人にはおすすめ。

『アブーバースの妖石術師』

 千夜一夜物語(アラビアンナイト)をリスペクトした本作。罪を背負った魔術師と秘密を宿した少女の旅が、いくつもの説話や回顧とともに語られます。西洋風ファンタジーとひと味違った世界を駱駝で旅しつつ、いにしえの賢人や妖霊ジン屍食鬼グールの気配を感じましょう。

 以上です。よい執筆生活を。

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