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TRPGシナリオ創作論 -1- 一般的な話

自己紹介&はじめに

 こんにちは。黒崎江治です。2021年9月、『Role&Roll Vol.203』にて拙作『外から訪れたもの』が掲載されました。

 続くVol.204掲載の記事(瀬戸エイジさん&皐月野鷽さん)に触発されて、noteのアカウントを作り、いまこの記事を書いています。

 本記事は新クトゥルフ神話TRPGのシナリオ創作論です。以下の特徴があります。

・文章やシナリオをある程度書き慣れた人向けである。

・公開用のシナリオを念頭に置いている。

・新クトゥルフ神話TRPGシナリオコンテストは念頭に置いていない。

 とはいえなにかしらの理論に準拠しているわけでもなく、結果の検証なんかもやっていません。私の好みも多分に混じってます。まあ創作論って大体そういう感じかもしれませんが。

 それでも、シナリオのクオリティを上げるのに行き詰ってる、ほかの人がどう作ってるのか知りたい、という人には多少なりとも役立つように書いたつもりです。


1)タイトルから作ろう

 シナリオ作りはタイトルからはじまります。

 言い過ぎました。でも私は実際タイトルから作りますし、考え方としてはそんなに変ではないと思います。名前のないものは、この世界に存在する力がどうしても弱くなるので。

 タイトルじゃなくても、作りたいシナリオのコンセプト/インスピレーション/イメージ/テーマソング/キャッチコピーみたいなのは思い浮かぶはずなので、それをとりあえず核に据えます。

 思いつかない場合は、そもそもシナリオを作りたいのか? というところから自問する必要があります。単純にインプットが足りないだけかもしれませんが。

 思いついたタイトルから出発して、いろいろと構想を膨らませていきます。通勤通学で駅まで歩いてるときとか、うんこしてるときとかに、タイトルを思い浮かべましょう。会議中コピー用紙に書いたりとか。

 最初につけたタイトルはあくまで仮のものです。シナリオがおおよそ形になってきた時点でしっくりこないようなら、タイトルをつけ直しましょう。

 具体的なタイトルはもうほんとにセンスと好みの問題なんで、以下は個人的な意見として読んでください。

〈難しい二字熟語〉〈難しい横文字〉』みたいなのは内容がイメージできないので、響きがかっこよくてもあんまりグッドじゃないです。蕭殺のエスタゾラム、みたいな。適当に考えました。

 個性のあるタイトルの付けたいならば、互いに異なるイメージを喚起する単語をくっつけるのが無難な方法です(例. 嗤う林檎ゼラチン質の夢)。

 さほど個性的じゃないタイトルでも、なにかドロッとしたものが感じられれば、ホラーとしてはよいタイトルだと思います(例. 外から訪れたもの黒い葛の家)。

 有名タイトルをもじったものは、原作に対する愛があって、内容にも多少関わってくるならOKだと思います。そういうのがないと、すごく薄っぺらい感じがして、私は嫌いです。

2)マップを用意しよう

 どういう場所でシナリオが展開するか決まったら、早めにマップを作りましょう。物語より先にマップがあります。街や病院や鬱蒼とした森は、事件が起こるずっと前からそこにあったはずです。

 物語のためだけに急遽作られたマップは、その中で活動している(いた)人間が想像できない、文字通り空虚なものになってしまいます。リアルを追求する必要はありませんが、最低限のリアリティ(それっぽさ)は確保したいところです。

 マップの作り方について。街でも施設でもゼロから作るのは難しいので、既存のものを参考にしましょう。1920年代アメリカを舞台にする場合は、アメリカ議会図書館のサイトが参考になります。部屋や事務所なら不動産仲介サイトとか。

 私の絵心は本当にうんち同然ですが、マップは割合褒められることが多いです。Excelの図形機能がおすすめです。色や形が修正しやすいからです。なにを使うにしても、美麗さよりも分かりやすさを重視するべきです。

 マップへの情報配置について。進行上必須の情報/アイテムは、自然な場所に置いておきましょう。あるいは、多少の漏れがあっても、のちのち探索者たちが不利にならないようにしましょう。しらみつぶしが必要と分かると、プレイヤーは作業をしていると感じるようになります。

 探索可能な場所のすべてに有用な情報/アイテムを配置しておく必要はありません。とはいえ、探索した場所がまったくの空であるとプレイヤーもがっかりします。住人の暮らしぶりなどが分かる小物を置いておいてあげましょう。

3)背景を固めよう

 背景も早めに固めましょう。公式シナリオで「キーパー向け情報」と書かれている部分です。

 まず背景があり、その後に物語(シナリオ本編)が生じます。物語ありきで作られた背景は、ふわふわしていて、味気なく、リアリティに欠けます。

 クトゥルフ神話に連なる存在はどこからやってきて、なにを目的にして、いかなる手段で目的を達成しようとしているのか。神話存在と人間社会がいつ、どのように交錯するのか。探索者たちは、それをどのような形で知ることになるのか。

 背景がしっかりしていると、シナリオ全体に一貫性が出ます。一貫性を持ったシナリオであれば、たとえ探索がうまくいかなかったとしても、プレイヤーは結果に納得してくれるはずです。

 しっかり書かれた背景(キーパー向け情報)は、シナリオ作者以外がキーパーを務める場合、特に有用です。キーパーがシナリオの背景を充分に理解していれば、探索者たちが思いがけない行動をとったときでも、シナリオ内容に即したアドリブがやりやすくなります。

 背景を組み立てていくにあたって、『神格が気まぐれで起こした』はあまり使わない方がいいです。使うとしても、中心に据えない方がいいです。なんでもありになるからです。神格に奉仕する人間の動機・欲望や、関連するクリーチャーの行動原理を中心に据えましょう。

4)シナリオを頑強にしよう

 ここから先は、シナリオが大体形になってきてからの話です。 

 私は頑強なシナリオが好きなので、ほかの人にも頑強なシナリオを作って欲しいと思っています。

 私が考える頑強なシナリオには、ふたつの特徴があります。

①目的達成のためにさまざまな手段を採る余地がある。

②キーパーが力技でセッションをコントロールしなくてよい。

 (採りうる手段の豊富さ)について、単純な例を挙げて説明します。

 Aという部屋に入りたい探索者たちがいるとします。Aの出入り口は施錠された扉だけです。

 このケースで、鍵を探す以外に、扉を壊す、鍵の在処を知っているNPCを脅す、といったさまざまな手段を採ることができ、それによって物語の構造が揺らがない、というのが頑強なシナリオです。

 この場合、作者はシナリオを頑強にするために、扉を破壊する余地(材質、監視の有無)を作ったり、鍵の在処を知っているNPCを配置したりする必要があります。

 (自然なコントロール)について、上記とは逆に扉の周辺をガチガチに固めて、鍵を探すしかない状況にする、という方法があります。探索者たちの行動を状況によって制限するということです。

 こうすると想定外が起きにくく、キーパーは楽ができます。しかし制限を多用すると逆効果で、頑強というよりも窮屈なシナリオになってしまいます。窮屈なシナリオでは、プレイヤーの「やらされている感」が高まります。設定された正解を探り当てる作業だと感じるようになります。

 ベターなやり方は、小目的を達成するために複数の手段が採れることを基本にしつつ、要所で行動の制限を盛り込む、というものです。

5)タイトルを回収しよう

 みんな好きなヤツです。余裕があればやりましょう。

 タイトルを一見したときの印象と、セッションを終えたあとの印象が違う、みたいなのもオシャレでいいと思います。途中でプレイヤーがタイトルの意味に気づく、というのも素敵ですね。狙ってやるのは難しいですが。

 タイトルが回収できる、ということはすなわち、シナリオの決定的な部分とタイトルがかっちりハマっている、ということです。

 クライマックスにドーン! でもいいですが、あまりにもあからさまだと鼻につきます。さりげなく、ぬるっと回収するのも、ホラー的な情緒があっていいんじゃないでしょうか。

6)手記をバラバラにしよう

 少し調子に乗ってひねった表現にしまいました。これも情報配置の話です。

 手記とはすなわち、事件の真相です。これをバラバラにするというのは、事件の真相をある程度断片的にして、シナリオの中で少しずつ取得できるようにする、ということです。

 たとえば、シナリオの終盤に見つかる、事件の真相が書かれた手記があったとします。それを読んだ人間なら誰でも、事件の真相を知ることができます。勇気も覚悟もない、偶然手記を拾った通行人Aでも。

「最初からこれが手に入っていれば、要らん苦労をせずに済んだんじゃないか?」

 もちろんそう単純な話ではないと思いますが、上記のような感想を抱かれる可能性もあります。

 しかし同じ事件において、手記を用意せず、シナリオの中に断片的な真相をちりばめた場合はどうでしょうか。

 危険な探索をくぐり抜たからこそ手にすることができた、不確かながらも魅力的な真相。プレイヤーたちにはそう映るはずです。探索者たちに完全な真相を明かす必要はありません。それはセッションの終了後にでもキーパーから明かせばよいでしょう。

 探索者たちだからこそ真相に辿り着くことができた。探索者たちが行動したからこそ、事態に(よい)変化がもたらされた。そういう感覚を持ってもらうことが大事です。

 余談ですが、現代日本で手記というアイテムはかなり時代遅れな気がしますよね。SNSとかパソコンに残ってるデータとか、宅配の伝票とか、そういうものを活用すると、情報源がぐっと自然な感じになると思います。

おわりに&宣伝

 以上6点、参考になったら幸いです。私のやり方的な部分もあれば、一般的に適用できる部分もあると思います。「なるほど」となったところは取り入れて、そうでないところは忘れるのがよいでしょう。

 またなにかnoteで書くかもしれませんし、書かないかもしれません。どこかで私のことを見かけたら、どうぞよろしくお願いします。

 以下は宣伝です。

 拙作『外から訪れたもの』掲載の『Role&Roll Vol.203』、よろしければお買い求めください。

 下記のHPでも自作シナリオを公開していますが、旧版(クトゥルフ神話TRPG)のものが多めです。

 講談社からクトゥルフ神話を下敷きにしたホラー小説を出しています。こちらも興味がありましたら是非。



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