TRPGシナリオ創作論 -4-「ロールプレイの糸口」を活用する
はじめに
こんにちは。黒崎江治です。最近は2018年のシナリオコンテストに出した作品をうんうん唸りながら改稿していました。
住人のいる屋敷を探索するシナリオなんですが、探索者たちと住人たち(NPC)の関わりが大きなウェイトを占めるので、役割や行動パターンなんかを想定しつつテキストを書かなければいけないのが大変でした。
悩んだら基本に立ち戻るべし、ということで、ルールブック第10章『 ゲームをプレイする』とか、非線形シナリオのサンプルである『紅文字』とかを読み直しました。主にロールプレイングの糸口(ロールプレイの糸口)の部分ですね。10章と紅文字とで微妙に表記が違うんですが、以下はロールプレイの糸口で統一します。
ルールブックでは、NPCについて二つか三つの「ロールプレイの糸口」を書くことが推奨されています。でも、既存のシナリオだと全然見かけないんですよね。私が知らないだけかもしれませんが。
10章にはその他いろいろ役に立つことが書かれていますが、今回はロールプレイの糸口に焦点を当て、備忘録兼ノウハウ共有のために、その活用方法を述べてみます。内容としては中級者~向けかもしれません。
ロールプレイの糸口ってなに?
NPCのプロフィールに付随する、外見や性格以上のもの。ざっくり言うと目的、探索者たちへの態度、行動パターンなど。あんまり厳密な定義や書き方はないようです。ルールブック記載の『紅文字』を読んでもらうと分かりやすいんですが、ネタバレが嫌という人のために架空の例を作ってみます。
『南アルプスに潜む雪男(正体はノフ=ケー)を調査するシナリオ』に登場するベッキーちゃんです。
ベッキー・ボルヘス、コロラド出身の女狩人
ベッキーはアメリカ西部、ロッキー山脈の麓に生まれた。20代のはじめに環境保護活動家の日本人と出会い、彼と共に大阪で数年暮らしたが、性格や価値観の違いは埋めがたく、結婚には至らなかった。彼女は傷心を抱えたまま放浪し、やがて長野の山間部に居を定め、狩猟やガイドや飲食店のアルバイトなどで生計を立てはじめた。その後地元の出会った老狩人と交友を結んだが、あるとき雪男に襲われた彼の死体を発見する羽目になった。
上記は適当なのでさらっと流してください。重要なのは下記。
ロールプレイの糸口
・ベッキーは友であった老狩人を殺した雪男に執着している。食い散らかされ、無残な肉塊となり果てた老狩人の幻影を脳裏から取り払うためには、自らの手で雪男を狩らなければならないと考えている。
・ベッキーは山での行動や狩猟の技術に自信を持っている。探索者たちが優れた能力を示さない限りは、冷淡な侮りの態度で接するだろう。
・ベッキーは単独行動を好み、進んで探索者たちに接触することはない。しかし、探索者たちが雪男を殺す障害となったり、探索者たちが先に雪男を殺しそうになったりした場合は別だ。
書く必要あるの?
非線形(かそれに近い)シナリオなら書くのがよいと思います。
シナリオ内における立ち位置が明確で、探索者たちと関わる期間・関わり方が限定されている場合は、書く必要が薄いかもしれません。シナリオの自由度が高くて、そのNPCの行動が展開に影響を及ぼすような場合は、書いておいて損はないでしょう。ベッキーの例だと、彼女が探索者たちに協力(同行)するか、別行動をとるか、あるいは邪魔してくるかによって、展開が大きく違ってくるはずですね。
自分のために書く
ルールブックの記述は、自作シナリオを自分で回す(キーパーを担当する)ことが念頭に置かれているようです。シナリオにおけるNPCの立ち位置を理解し、シナリオの内容と響き合うNPCを創りあげることで、シナリオの質を高める。そのために、ロールプレイの糸口を書いて(考えて)おこう、という感じでしょうか。
仲間内でわいわい遊ぶためだけのものなら、そこまで思いつめなくてもいいんじゃないか、という気もしますが、質を向上させる手段として一考の余地はあるでしょう。
シナリオを読む他者のために書く
ルールブックに書かれていることの意図とは少し違うかもしれませんが、昨今はシナリオを公開する人が多いので、私はむしろこっちを力説したい。
ロールプレイの糸口は、キーパーがシナリオの魅力を引き出す助けになる。
シナリオ作者はベッキーの産みの親なので、誰よりもベッキーを理解しています。フィーリングで楽々彼女を動かすことができます。でも、シナリオ作者でないキーパーは、テキストだけが頼りです。ベッキーに対する理解度は低いです。理解度が低いと「ベッキーどのように判断し、行動するのか」を考えるコスト高くなります。キーパーの認知・思考のリソースは有限ですから、セッションのほかの部分にしわ寄せがいってしまう。
熟練のキーパーであれば、シナリオ背景や記載された人となりから類推して、あまり苦労せずにベッキーを動かすこともできるでしょう。でも、それがシナリオ内容や作者の意図とズレてしまう可能性は、少なからずあります。ほかの部分にしわ寄せはいかないけれど、シナリオの魅力が充分に引き出せないかもしれない。
ロールプレイの糸口がしっかり書いてあれば、キーパーの(思考や判断にかかる)負荷が軽減され、セッションがよりスムーズに進む。シナリオの内容とNPCのふるまいがうまくかみ合えば、セッションがより楽しいものになる。
シナリオが非線形だったり、NPCが重要な立ち位置を占めていると、上記の効果が高いということですね。あとはなんか単純に玄人っぽかったり、ほかのシナリオ作者に差をつけられる、みたいなのもメリットかもしれない。
なにを書けばいい?
目的、探索者たちへの態度、行動パターンなどです。ベッキーの例で説明します。
・ベッキーは友であった老狩人を殺した雪男に執着している。食い散らかされ、無残な肉塊となり果てた老狩人の幻影を脳裏から取り払うためには、自らの手で雪男を狩らなければならないと考えている。
目的です。これを書いておくと、キーパーがベッキーの行動に困ったとき、「彼女は目的を果たすため、どのように行動するだろう?」という観点から考えることができます。
・ベッキーは山での行動や狩猟の技術に自信を持っている。探索者たちが優れた能力を示さない限りは、冷淡な侮りの態度で接するだろう。
探索者たちへの態度です。ベッキーは陽気で社交的な性格かもしれません。でもシナリオにおいて探索者たちへはこのように接します。山という探索のフィールドと響き合っている部分です。ベッキーという人間にちょっと深みが出ます。
・ベッキーは単独行動を好み、進んで探索者たちに接触することはない。しかし、探索者たちが雪男を殺す障害となったり、探索者たちが先に雪男を殺しそうになったりした場合は別だ。
行動パターンです。多分、彼女は雪男を追う過程で、ふたたび探索者たちと交わるでしょう。キーパーはそのタイミングを測るにあたって、この記述を参考にすることができます。
まとめ&宣伝
・「ロールプレイの糸口」はシナリオの質を高める。
・もっと言うと、シナリオ内容とNPCが響きあって素敵な感じになる。
・シナリオの自由度が高いとき、NPCの役割が大きいときは特に有効。
・作者以外がキーパーを務めるときの負担も減る。
みなさんの書くシナリオがよりよいものとなりますように。
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講談社からクトゥルフ神話を下敷きにしたホラー小説を出しています。
拙作『外から訪れたもの』(新クトゥルフ神話TRPGシナリオ)が掲載されています。友人である作家に呼ばれ、マンションの部屋にやってきた探索者たちが目にするものとは……
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