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4つの世界選手権を終えて

様々なゲームタイトルの競技シーンにおける世界一を決める戦い、世界選手権。
今年はありがたいことに4つのゲームタイトルで実況として携わらせていただくことができました。
今回の投稿では、私の目から見た4つの世界選手権について振り返ります。

”正しさの証明”
Legends of Runeterra World Championship

Legends of Runeterra World Championship
開催日:2021年9月16-18日(太平洋夏時間)
開催場所:オンライン

「優勝という栄誉のために戦います」
思えば、第1回公式国際大会の時から、彼らは勝利を渇望していました。
レジェンド・オブ・ルーンテラは日本のゲームシーンの中で、客観的に見て良い立ち位置にいるとは言えない状況が現在も続いています。
そんな中でもこのゲームに熱心に取り組んでくれている選手達の執念、彼らは自分たちの選択の”正しさを証明する戦い”を1年以上に渡って続けてきました。
そして、彼らの心を満たすには、勝利という確固たる結果が必要でした。

アジアブロックから唯一の出場となったやまと選手は、この期待を一身に背負ってくれた選手です。
日本の選手達の英知を結集したデッキ、凄まじいプレイスキル、そして決して最後まで諦めない心、心技体を整えて挑んだやまと選手は、決勝戦にて欧州のALANZQ選手をあと一歩のところまで追いつめましたが一手届かず、惜しくも準優勝という結果に終わりました。

決勝終了後のインタビューでやまと選手は応援してくれたファンや仲間たちに感謝の意を伝えると共に、深々と頭を下げ「すみませんでした」と口にしました。
外から見れば世界2位という成績は手放しで称賛できる素晴らしい結果と言えるでしょう。
しかし、このやまと選手の「すみませんでした」という一言は、彼とその仲間達の世界一の称号に対する並々ならぬ想いの表れだったかと思います。

自分たちの正しさの証明、それはまだ道半ば。
2021年は悔しい終わり方だったけれど、2022年こそは必ず。
…彼らの自分の心を満たす戦いは、これからも続いていきます。

最後に、解説のすろあさんに感謝を伝えたいので書かせていただきます。
私の「すろあさんと一緒に世界選手権の実況解説したい」というエゴの元に解説として誘ったことで、すろあさん自身のルーンテラでの選手キャリアを諦める結果になったにも関わらず、文句ひとつ言わずついてきてくれてありがとう。
すろあさんの英断と、紡ぎ出された言葉ひとつひとつに、本当に感謝しています。

”最高の「ヤッター」”
第27回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権

第27回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権
開催日:2021年10月8-10日(太平洋夏時間)
開催場所:オンライン

トレーディングカードゲームの祖、マジック:ザ・ギャザリングの最高峰の舞台に送り込まれた16名の選手は、いずれも厳しいリーグ戦や大会を勝ち抜いて、この細い細い出場権利を獲得した猛者揃い。
新セットである『イニストラード:真夜中の狩り』リリース直後という、新環境への対応力が求められる中、高橋優太選手は他の15名が採用しなかったコンセプトのデッキを唯一持ち込みました。
最初の3戦をあまりにも痛い3連敗スタートとなってしまった高橋選手は、早くも残りのラウンド全てで勝利しなければいけないという窮地に立たされます。
このあまりにも厳しい逆境を、彼はひとつずつ乗り越えて決勝トーナメントへと辿り着きました。

高橋選手のこの魂の叫びに、実況という立場で立ち会えたことを、私は一生忘れないでしょう。
この「ヤッター」に彼の競技人生の全てが集約されているといっても過言ではありません。
あまりにも長い、終わりの見えないトンネルを、高橋選手は遂に通り抜けたのです。

そして…。

蓋を開けてみれば決勝トーナメントも完勝。
高橋選手のデッキ選択、そしてこれまで十数年このゲームに打ち込んできた熱意が、彼を王者へと導きました。

マジック:ザ・ギャザリングで日本から世界王者が誕生するのは、これが初めてではありません。
これまでも数々の勝利と栄冠を得た選手が日本には多数存在しています。
マジック:ザ・ギャザリングの競技シーンは、そんな彼らの活躍に胸を躍らせ、そしてその背中を見て自分もそうなりたいと夢見る選手を沢山創造してきました。
そのうちの一人が高橋選手であり、私でもあります。
私自身は10年以上このゲームの競技に取り組んだものの、選手として大成することはついに無いままその夢を諦めましたが、もし高橋選手のように夢を諦めなかったら、彼のようになれていたのだろうか、なんていう荒唐無稽な”たられば”を頭に思い描かせてくれる、そういった魅力をこのマジック:ザ・ギャザリングの選手達からは不思議と私は感じられるのです。

夢追い人が、いつしか皆の夢の代弁者となり、新たな夢追い人を生み出していく。
理想にして至高の世界が、そこにはあります。

”優勝候補と言われる苦悩とその打破”
ブロスタ世界一決定戦2021

ブロスタ世界一決定戦2021
開催日:2021年11月26-28日
開催場所:ルーマニア(一部チームのみオンライン参加)

2021年はブロスタと後述するクラロワにとって、非常に挑戦的な競技シーンとなりました。
2月から毎月開催されるチャンピオンシップチャレンジで上位入賞することで得られるポイントレースの結果によって世界一決定戦に出場できるチームが決定する、という告知が突如として年明けに発表されたことにより、例年よりも長期的かつスピーディーな競技シーンへの合わせ込みが求められたのです。
9か月にも及ぶ長いチャンピオンシップチャレンジを東アジアブロックで勝ち抜いたのは”ZETA DIVISION”と”Queen Nai”という2つの日本のチームでした。

私が実況として参加したのはこのチャンピオンシップチャレンジの後半戦からでした。
その時点で圧倒的な戦績を上げていた”ZETA DIVISION”。
解説の米将軍さんからも「世界最強のチーム」と事前に伺ってはいたのですが、その凄さはブロスタ初心者の私からしても一目瞭然でした。
緻密な戦略、息の合ったコンビネーション、そして窮地に陥ったとしてもそれを覆すことができる個々の強さ、誰がどう見ても「世界最強」という枕詞に納得するパフォーマンスをその時点では見せていました。

しかし、そんな”ZETA DIVISION”に思わぬアクシデントが襲い掛かります。
世界一決定戦が近づく後半戦で、まさかのマンスリー決勝戦での連敗という大ブレーキ。
他のチームが良い仕上がりを見せていく中で、ポイント的には悠々と世界一決定戦への出場は決められてはいたのですが、勝ち切れない月が続く”ZETA DIVISION”の選手達の重圧は計り知れないものだったであろう、と容易に想像できます。
人の期待は、裏を返せば呪いのようなものです。
”ZETA DIVISION”はこの「優勝候補」という言葉の呪いと1年間戦い続けたチームでした。
その呪いを払拭するためには、勝たねば。

ブロスタ初心者の私から見ても、世界一決定戦で彼らは極上のプレイを完遂し続けました。
そんな彼らを見て、私の口から自然と漏れた「ZETAは!ブロスタが!上手すぎる!」という言葉は、何の飾りもない、ただただ彼らを称賛する言葉だったかと思います。
プロ選手としてファンの声に応え続けた”ZETA”は、名実ともに世界トップチームとなりました。

ゲームを良く知らない人にも届く彼らのプレイの凄さ、そして勝ち切った喜びとその分かち合い。
この瞬間が見たくて私たちは選手を応援してるんだ、という競技シーンを観る楽しみの根本の部分に触れさせてくれた”ZETA”とブロスタに感謝ですね。
来年も彼らの活躍が楽しみで仕方ありません。

”「世界」最強 | むぎ”
クラロワ世界一決定戦2021

クラロワ世界一決定戦2021
開催日:2021年12月3-5日(太平洋夏時間)
開催場所:オンライン

2018年から始まったチーム戦によるクラロワリーグが3年で一区切りとなり、個人戦による世界一決定戦が4年ぶりに帰ってきました。
クラロワの実況に携わらせていただくようになってから、私にとっての初めての個人戦のリーグとなりましたが、前述のブロスタ同様に厳しいポイントレースが1月より開始され、選手達は休む間もなく9か月を戦い抜きました。
その集大成の場が、この世界一決定戦なのです。

このポイントレースで圧倒的な勝率を誇り、世界一位の状態でこの世界一決定戦に乗り込んできたのがエジプトのモハメド・ライト選手でした。
”王”の異名を持つ彼は、その圧倒的なプレイスキルとデッキ構築によって世界中のクラロワファンの視線を一身に集めるスター選手へと昇りつめます。

2021年の最優秀選手賞も獲得

誰がライト選手を倒すのか。
いや、そんな逸材がこの世にいるのか。
そんな言葉が飛び交う中で、日本からは地域別では最多の6名が世界一決定戦に進出、そして”打倒ライト”をまず最初に受け持つことになったのは日本のスタープレイヤーの一人であるRAD選手でした。

しかし…。

RAD選手も善戦したのですが、ライト選手の強さを再確認する結果となりました。
あまりにも眩しすぎるライト選手の実力。
ただ、ライト選手自身も「優勝候補」という言葉の重みと必死に戦っていたからでしょう、ラウンドが進むにつれて勝利して涙ぐむ場面も出てきました。
競技は相手との戦いの場ですが、究極的には自分との闘いでもあります。
どれだけ強くても上手くても、ライト選手も人間である以上、重要な局面ではメンタルは揺れ動きます。
そして、これは誰にとっても言えるはずです。

そのはず、でした。
ただ一人を除いては。

最強を己に冠する男、むぎ。
日本が誇るリーサルウェポンが決勝戦に無敗で進出。ライト選手と相対します。

昨年、満を持してプロチーム加入後、即エースとして大活躍を見せたむぎ選手は、アナリストのARIMURAさんと共に更にその力を増して、この世界一決定戦に臨んでいました。

一体どれだけの研鑽を積めばこの境地に辿り着けるのか、一切感情が揺れ動くところを見せず淡々とゲームを進めるむぎ選手と、それとは対照的にとてもナーバスな表情を浮かべながらプレイする、”らしくない”ライト選手による決勝戦。
そして、最後は正確無比なプレイと数多の情報戦を制してきたことに定評のあるライト選手の予想を上回る大胆なデッキ選択を見せて、ライト選手の防衛計画を徹底的に破壊しきったむぎ選手が世界一の座を奪取しました。

これは、日本のクラロワファンが5年間待ち続けていた瞬間でもありました。

むぎ選手の使用しているアカウント名は「最強|むぎ」。
彼は自分と仲間の力が真に世界一だと、最強だと、遂に結果をもって証明してみせたのです。

クラロワは全世界から素晴らしい才能溢れる若者がとても多く発掘されたゲームで、それ故に日本の選手が世界一の壁を突破するのに5年もの歳月が流れました。
ただその5年の系譜は、脈々と受け継がれています。
0からのコミュニティ形成、多数のインフルエンサーの育成、プロチームの発足、世界の舞台への挑戦、そして敗北の経験。
これらの歩みが今の日本の選手層の厚さ、そしてむぎ選手の誕生に繋がっていると、クラロワの様々なシーンに立ち会ってきたからこそ、実感しますね。

改めまして、むぎ選手優勝おめでとう、そして感動をありがとう。

最後に

今年は様々なゲームタイトルの競技シーンに実況として携わることができました。
これもひとえに皆様の応援のお陰です。本当にありがとうございます。
来年もゲームキャスターとして、沢山の素晴らしいゲーム、素晴らしい選手、そしてなにより感動に立ち会えれば嬉しいですね。
まだまだ至らぬ点も多々あるかと思いますが、更なるレベルアップも目指しながらこの活動を続けていきたいと思いますので、何卒宜しくお願い致します。
ご読了、ありがとうございました。

海老江 邦敬


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