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【錯角の代償とリーダーシップの本質 RICビジネス編#4】
創業期を経て、ペルソナの解像度が高まったら、事業計画を立て仮説検証を繰り返す。
3話目までの起業のステージとしてはここまで(下表:シード期のMVPまで)でした。
その時期に、私自身は仲間と課題を共有する壁に直面したという話でしたね。
この壁を乗り越えても、また次なる壁がやってきます。
端的に言えば、私は当時情報を共有することを「お前のやることはこれだ。目的はこれだ。だから全力でやれ」と強制することとはき違えていました。
というわけで、今回の壁は、リーダーシップの壁。
相手の潜在力を信じて任せてみる。何かあれば責任を取る。そういうスタンスのリーダーシップへ移行するのが課題でした。
今回の話は起業のステージでいうと、アーリー期に入る前のPMFに至るまでの部分についてです。
<PMFまでの道のり>
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前回は、シード期に入ってからのプロダクト開発の話を扱いました。顧客に価値を提供できる最小限のプロダクト、つまりMVP(Minimum Viable Product)を作ることが必要という話でした。
MVPを世に出して、顧客からのフィードバックなどを参考にし、新機能の追加や改善点の見直しを図るまでが前回お伝えしたところです。
今回はそのさらに後、プロダクト開発の終わりにあるPMF(Product Market Fit:プロダクトマーケットフィット)に向かうところの話です。
PMFとは、カスタマー(顧客)の課題を満足させる製品を提供し、それが適切な市場に受け入れられている状態のこと。
もっというと、顧客が熱狂しているか。このプロダクトがないと、非常に困ってしまう/残念に感じてるユーザーがいる状態でないといけません。
<本当にPMFに至ったのか?>
具体的な状態をイメージできるように、私自身の例をお伝えします。
私が当時手をつけようとしていたビジネスは、病院から一括で請け負うBtoBの保育園運営事業です。
祝祭日や夜中に働くこともあり、子どもを預けたい時間や緊急性が他とは違う看護師や医師に焦点を絞り、預けたい時に預けられるよう、病院からまとめて保育を引き受けるというアイデアでした。
もちろん、アイデアは簡単には形になりません。
一人で市内の病院を歩き回り、やっと大型案件を2件獲得しました。
受注してからもてんてこ舞いで、問題が山積みだったことは前回お伝えした通り。
とはいえ、こんな私が立て続けに2件も大型案件を取れたのです。
市場が熱狂していると錯覚してしまいました。
これはいけると思い、男性二人を雇用し、販路の開拓にリソースを投入することになります。
しかし、せっかく営業の男性が入ってドブ板営業をしてくれたものの、2年が経っても新規案件を獲得できませんでした。
<増えない顧客、底を尽きかける資金>
結果、どうなったか。
数年経っても新規案件を獲得できず、資金がジリジリとなくなっていきました。
私は焦り、社員の状態に頭が回らなくなります。このままでは家族を養って行けないかもしれないという不安もありました。
結局、二人の男性を社員として雇用していたのですが、一人は鬱で辞め、もう一人には退職勧告を出して辞めてもらうことになります。
かなり精神的にきつい出来事でした。
二人が辞めた後で、自分の責任と向き合うことになりました。
自分はどこか他人任せだったんじゃないか。命令通りに動かない、結果を持って来ない社員のせいだとどこかで考えていたんじゃないかということに思い当たりました。
信じて託すことと、失敗を仲間の責任にすることは違う。
そんなことにようやく気づいたのです。
<本当のリーダーシップとは>
私が自分の過ちに向き合って気づいたことは、自分が責任を持った主体者であるということでした。
遠くの国の戦争も、自社の社員の失敗も、あらゆることに自分はちょっとずつ関わっていて、必ず責任がある。
自分が違ったふるまいをしていれば、結果を変えることができたかもしれないということです。
ただし、前回の話で伝えたように、リーダーである自分が一人で全部考えて、全部自分だけで回すのがいいわけではないこともわかっています。
2つの教訓の統合が必要でした。
仲間を信じて託し、失敗の責任は自分が取る。
「お前がこうだったら」なんて思わないことです。
その人を選んだのは自分だし、人の力を借りなければ、私一人でやれることなんてのは、とてもとても小さなことでしかないのです。
失敗は、自分を磨けなかったことの結果です。
だから、責任を自覚して次に向けて自分を高めていく。
<痛みが人を現状から突き動かす>
その後、家族の手助けもあり新規案件を獲得できたのですが、これでは続かないと判断した私は営業手法を切り替えることにしました。
ドブ板営業をやめてM&Aを考えるようになります。
人は、痛みを覚える大きな出来事があると、現状から抜け出したい気持ちが強くなります。
そういう意味で、痛みは現状からの変化を促すカンフル剤。
私はそれで方針転換できました。
ただ、今思えばですが、M&Aに手法を変えたのも、結局のところはPMFできていないという本質的な課題には向き合えていないのですが。
それでも、自分なりに引き出した教訓から方針を大きく転換したのは意味のあることでした。自分の犯した間違いに気づいて修正した回数は、成長の階段を登った証です。
<まとめ>
今回は、シード期のPMFに向かっていくまでの話でした。
ここまで連載を見ている方だと、毎回毎回重い課題にぶち当たっているなと思われるかもしれません。その通りです。起業ってけっこうそんなものです。
試練や修羅場をいくつも乗り越えながら、身体知としてトップとしてのあり方、考え方を身につけたという経営者は多いものです。
険しい道ですが、それでもやる意味があると思えることがある。
それは何より幸せなことだとも思います。
それではまた次回!