【優れた事業計画があっても投資はしてもらえない起業家 RICビジネス編#2】
飽きたり折れたりせずに続けられる事業をどう見つけたらいいのか?
この問いに答えるのが前回の内容でした。
おさらいすると、喪失体験と紐づいているような強い動機を持って臨めること(使命感)・したいこと・できることの3つが重なる領域にこそ、あなたが継続できるビジネスがあるのです。
しかし、いくら気持ち的には継続できる事業であっても、その事業を成長させられるかどうかはまた別問題。
優れた起業家かどうかは、どれだけ事業を続けているかではなく、絶え間ない変化、障壁を越える経験の積み重ねができているかで測られるものです。
今回は現実に自分の外側にある障壁に対し、起業家はどう向き合っていくべきかというのがテーマです。
起業のフェーズとしては、シード期と呼ばれるタイミングに移行する際に必要なことを扱います。
<シード期とはどんな時期か?>
前回、起業する前から直後あたりまで(創業期)の話を扱いました。
事業領域をざっくり定めて、その中でとにかくやれることをなんでもやって泥臭く日銭を稼ごうという話でしたね。
今回は、それに続くシード期と呼ばれるタイミングに移行する時期を扱います。
図で言うと左から2番目ですね。この図はあくまで目安であり、この流れ通りに行くことが正解というわけではありませんが、モデルとして頭に置いておくと見通しを立てやすくなります。もちろんどの段階においても、別の道は常に開かれています。
シード期には、創業期になんでもやって日銭を稼いでいた中で、どんな属性の人がお客さんに多いか、どんな属性の人に最も貢献できそうかが見えているはずです。
その中でも特にバーニング・ニーズ(今すぐ消火しなければならないような差し迫った課題)を抱える顧客を特定することが大事です。
ペルソナの仮説を元にいわゆる事業計画の仮説と構想を作るのがこの時期です。
5W2H(なぜ・誰に・何を・どんなタイミングで・どこで・どうやって・いくらで届けるか)をイメージし、専門家の知見を借りたりしながら、それが現実に実行でき、顧客の不を解決する構想になっているかをチェックします。
ここで投資家にプレゼンをすることもあります。
このとき投資家が見極めようとするのは人柄(素直さ、誠実さ)・過去の実績(どういう体験をし、どんな失敗をし、何を学んできたか)・野心(俺がやらねば誰がやるという熱意)・仲間を巻き込む能力などです。
<事業計画の仮説と構想を作る>
私自身の例をお伝えしましょう。
「働く女性のサポートをする」という方針で、介護も育児も家事代行もとにかくなんでもやっていた創業期、一番多いお客さんが看護師さんや女性警察官の方であることに気がつきました。
彼女たちは年中無休で、急な夜間の仕事が入ったりもします。
しかし、保育園の多くが祝祭日は休み。急な出勤依頼があれば駆けつけないといけません。そうなると、子供を預ける場所がない。
そんなわけで私たちのような柔軟に要望に応えてくれるサービスに強いニーズがあったのです。
これを踏まえ、顧客を看護師の方々に絞り、病院から一括で請け負うBtoBの形の保育園経営ができないかというアイデアが生まれました。
先ほどの5W2Hで整理すると
why: 働いている全てのお母さんが思う存分働ける社会にする
who: 緊急の仕事で子どもを預ける場所がなかった看護師さんたちに
what: 病院内保育請負事業を提供する
how: 病院経営者と連携して運営する
(when/where/how muchは省略)
となります。
構想を描いたらその上で、
実際スケジュール通り行くのか?
法的に大丈夫なのか?
本当に不を解消する仕組みになっているのか?
軌道に乗るまでお金は回るのか?
などを確認する必要があります。必要なら専門家に頼る。
私の場合は、事業計画を作る上で中小企業庁の経営サポートプログラムを受けに行ったり、専門性の高いプロの人材がいる団体に相談に行ったり、公的機関と接触を図って補助金を探したりするなどして外部の力を頼りました。
この時期の起業家には十分な資金がないことも多いので、経産省や自治体が出す補助金や助成金、無料・低価格で相談できる専門家を頼ることは重要です。
<現状を変えるための3つの力>
投資家は、起業家がどれほどの逆境をどう乗り越えてきたかをみてその胆力を推し量ろうとします。
起業はそれほど甘いものではなく、失敗や逆境がつきものだからです。
優れたアイデアを持っていることと、それを形にするため計画通りやり切れるかどうかは全く異なるベクトルの話。
不都合でも事実と向き合い、無数の要素から本質をつかみ、行動しながら学ぶことができるか?
これらを統合した現状を変える力が備わっているかが、投資するかどうかを決める判断の前提としてあります。
要素を一つずつ見ていきましょう。
<事実と向き合う力>
まずは、事実と向き合う力について。
「事実と向き合う」とは、何が起きているのかを正しく把握することです。
たとえ不都合でも、数字をしっかり見なければ経営は上手くいきません。
がんばったかどうか、どれだけ時間をかけたかは関係ない。
計画した数字通り、またはそれ以上の結果が数字として出たのかどうか。出ていないなら何が想定と違っていて、どう修正していくのか。
これができていなければ話になりません。
創業期からシード期へ移るタイミングであれば、たとえば、成長率、良質な口コミ、ユーザーからの積極的な機能改善要望などを客観的に見て、ペルソナと課題を特定し、事業計画に反映する必要があります。
<本質をつかむ力:選択と集中>
続いて、本質をつかむ力について。
「本質をつかむ」とは、何が決定的に重要な要素かを見抜き、注力するポイントを絞り込むことです。
経営は、選択と集中の繰り返しです。
すべての事態に対処することはできませんし、思いついたすべてのやり方を実行することもできません。
本質的な部分に注力しないでいるうちに情熱や資金を使い果たし、たち行かなくなってしまうことはよくある話です。
<行動しながら学ぶ力:完成形は頭の外で生まれる>
最後に、行動しながら学ぶ力について。
経営をしていれば、次から次へと考えないといけないことが降って湧いてきます。しかも、どれにも正解がない。教えてくれる人もいません。
すべては仮説と検証の途上にあります。
最初から完璧なアイデアを生み出せるなんてのは幻想です。
アイデアは頭の中ではなく、現実との衝突によって洗練され完成(役に立つ形)に近づいていくもの。
本質的に重要なポイントを見抜き、そこにリソースを投下する決断をし、次の行動に反映することのくりかえしによって最適な形が浮かび上がってくるという方が実体に近いです。
<まとめ>
全体をまとめます。
シード期への移行期は、事業計画の仮説と構想を作る時期で、顧客の不を解消するビジネスモデルを構築していく段階です。
この時期には、不都合ではあっても事実と向き合い、本質的な課題を見極め(選択)、限られたリソースをそこに集中させ、行動しながら学ぶことが重要です。
いくつもの障壁を越えるタフネスが求められるでしょう。
創業期は理想を追い求めるあまり、孤独を感じることもあります。
しかし、シード期に入るタイミングで一人でやる限界を知り、助けを求めるようになった時前進し、この時期に繋がった人とはその後も長く支え合い助け合える関係でいることが多いです。