2020年スチュワードシップ・コード改訂案についての私見
12月11日に金融庁で開催された「スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」(令和元年度第3回)において、来年施行予定のスチュワードシップ・コード改訂案が示されました。
以下の投稿では1)ESG要因考慮の指針から原則への格上げ、2)ESG要因の統合範囲を投資だけでなくスチュワードシップ活動への拡大という2点について、期待を寄せました。
上記の改訂案で注目すべきESG関連の追加文言は以下の太字部分です。
指針 1-1. 機関投資家は、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解のほか投資戦 略に応じた ESG 要素を含む中長期的な持続可能性(以下、「サステナビリティ」 という。)の考慮に基づく建設的な「目的を持った対話」(エンゲージメント) などを通じて、当該企業の企業価値の向上やその持続的成長を促すことにより、 顧客・受益者の中長期的な投資リターンの拡大を図るべきである。
指針1-2. (前略)その際、投資戦略に応じて、サステナビリティに関する課題を考慮するか、考慮する場合にはどのように考慮するかについて、検討を行った上で当該方針 において明確に示すべきである。
指針4-2. 機関投資家は、サステナビリティを巡る課題に関する対話に当たっては、投資戦略と整合的で、中長期的な企業価値の向上や企業の持続的成長に結び付くものとなるよう意識すべきである。
私の投稿での2つの期待と照らし合わせて、以下私見を述べたいと思います。
1)ESG要因考慮の指針から原則への格上げ
原則ではなく、スチュワードシップ方針策定を明記した原則1、企業と機関投資家とのエンゲージメント(「目的を持った対話」)について規定した原則4のそれぞれ指針として盛り込まれるにとどまりました。
原則化は英国版スチュワードシップ・コードへの規定に加えて、機関投資家の取る行動に遍くESG要因を考慮すべきとの考えからです。今回の改定では投資先の把握に触れた原則3だけでなく、原則1、原則4にもESG要因考慮が盛り込まれた点では一定の評価ができます。しかし、原則としてESG要因考慮を謳わないのであれば、活動の前提となる原則7(機関投資家の実力涵養)においてもESG要因考慮について指針を追加すべきだったと考えています。自機関でESG評価をするにしても、他機関に委託する場合であっても、スチュワードシップ・コードに署名している機関投資家がESG要因考慮における知見蓄積は不可欠です。
2)ESG要因の統合範囲を投資だけでなくスチュワードシップ活動への拡大
スチュワードシップ活動のうち、エンゲージメントについては原則4での指針追加で実現しそうです。しかしスチュワードシップ活動とはエンゲージメントだけではなく、議決権行使も含まれるだけでなく、それらの活動の顧客への報告も含まれます。すなわち原則5(議決権行使)、原則6(スチュワードシップ活動の報告)でもESG要因考慮の指針を追加すべきだということです。
一部の活動ではESG要因考慮をしなければならず、その他ではしなくてもよいというのでは、機関投資家の行動に一貫性が欠如してしまいます。これは英国版スチュワードシップ・コードで懸念されていた、一部の活動で行っているESG要因考慮を組織全体で行っているような誤解を与える情報開示につながりかねません。
今回の改訂案は意見公募を経て、その内容を考慮した上で、最終版として公表される予定です。上記の事項について最終版では少しでも是正されていることを願います。