経営計画策定で考慮すべきコーポレートガバナンス・コードの今後の改訂
企業が中長期の経営計画を策定するにあたり、規制強化や技術進歩など外部環境の変化について一定の仮定を置くことは一般的です。例えば、自動運転であれば、どこまで人間の関与なしに運転できるかという技術的な進歩に加え、自動運転車が事故を起こした場合の責任の所在といった法的な側面における議論もモニターし、必要に応じ経営計画に反映することは理に適っています。
日本において投資家を含むステークホルダーからの関心がここ数年急激に高まっているものにコーポレートガバナンスがあります。そこで中長期経営計画の策定時に考慮すべき外部環境の変化として、コーポレートガバナンス・コードの改訂の動向を見据えておくことは同様に有効でしょう。わが国のコーポレートガバナンス・コードは、今までのところ、3年に1度改訂が行われており、同じ頻度で行われるとすると、通常3~5年の中期経営計画の期間中に改訂が行われる可能性が高いことになります。
今後の改訂内容を予想するにあたり、有益な手掛かりとして国際コーポレートガバナンス・ネットワーク(ICGN)の掲げるグローバル・ガバナンス原則があります。ICGNは世界の機関投資家が設立した業界団体の1つで、主に企業のガバナンスの強化を目標としています。ICGNに注目するのは、同団体が世界各国のコーポレートガバナンス関連の規制に積極的に意見表明していることに加え、同コード改訂を主導した金融庁の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」にも同団体の代表が参加しているためです。
日本のコーポレートガバナンス・コードは(1)株主の権利・平等性の確保、(2)株主以外のステークホルダーとの適切な協働、(3)適切な情報開示と透明性の確保、(4)取締役会等の責務、(5)株主との対話の5つの基本原則から構成されており、それぞれについてより詳細な原則および補充原則が規定されています。
一方、ICGNグローバル・ガバナンス原則は(1)取締役会の役割と責務、(2)指導力(Leadership)と独立性、(3)取締役会の構成と指名、(4)企業文化、(5)リスクの監督、(6)報酬、(7)報告と監査、(8)株主の権利の8つの原則から構成され、それぞれに指針が付与されています。
ICGNグローバル・ガバナンス原則の指針を基点に、わが国のコーポレートガバナンス・コードの原則と対照してみると(1)取締役会の役割と責務、(2)指導力(Leadership)と独立性については多くの項目がコーポレートガバナンス・コードでもカバーされています。しかし、他の6原則については部分的にカバーされているものの、わが国のコーポレートガバナンス・コードに未だ言及がない項目も目立ちます。
もちろんICGNの代表が同コードの改訂にかかわっているからといって、同団体の原則の全てがコーポレートガバナンス・コードに導入されるということは考えにくいです。しかし、海外機関投資家の関心事としてICGNグローバル・ガバナンス原則に示される内容がわが国の次回のコーポレートガバナンス・コード改訂の際に考慮される可能性は十分考えられます。
したがって、改訂を待って事後対応するのではなく、投資家を含むステークホルダーからの関心が高まる事項として、ICGNグローバル・ガバナンス原則の(3)から(8)について取締役会で議論し、中長期の経営計画でそれに対する姿勢を開示していくことこそ重要といえます。例えば、ICGNグローバル・ガバナンス原則において取締役の指名および報酬体系の決定プロセスについて言及があります。いずれもこれまでは一般的な表現にとどまり、具体的な説明がなされることは必ずしも多くありませんでした。そこでいかに優秀な取締役を招聘し、インセンティブを与えるかを詳述することは、事業ポートフォリオ、事業戦略、経営資源の調達と分配、目標計数などを掲げる中長期経営計画の実効性を補強することができるはずです。