日本版スチュワードシップ・コード改訂で期待されるESG「原則」化
2019年10月下旬に英国財務報告協議会(FRC)は2020年1月1日より施行予定
のスチュワードシップ・コードの改訂版を公表しました。スチュワードシップ・コードは主に運用会社などアセットマネジャー、年金基金等アセットオーナーが遵守すべき行動原則をまとめたものです。
今回の改訂の最大の目玉は、ESG要因の統合を原則の1つに位置づけたことです。新設の原則7において「署名機関は、スチュワードシップと投資を、重
要な環境、社会、ガバナンスの課題、そして気候変動も含めて、自身の責任を果たすために体系的に統合する」との文言を盛り込みました。そのうえで、署名機関には以下の2点について説明を求めています。
第1に、スチュワードシップおよび投資の活動に対するESG要因の統合に関し
て、ファンド、アセットクラス、地理の差異ごとの実態についてです。スチュワードシップとは投資先に対する自発的な働きかけを意味し、投資先との対話であるエンゲージメントや議決権行使がそれに当たります。投資方針においてESG要因の統合が謳われていても、ESG要因の統合が一律に行われているとは限らず、より実態に関する説明を求めていると言えます。
第2に、顧客・最終受益者の投資期間と整合性を保ちつつ、スチュワードシ
ップおよび投資の活動においてESG要因の統合を行うプロセスについてです。自社で両活動を行う場合はそのプロセス、および一部の活動を外部機関に委託する場合でも、ESG要因の統合を要求事項に含めるためのプロセスを示すということです。
同コードでは「コンプライ・オア・エクスプレイン(遵守せよ、さもなくば
説明せよ)」手法が採用されており、署名機関は遵守する場合には上記原則についての具体的な説明を、遵守しない場合には、署名機関にとって不適当と判断した理由・背景を説明しなければならません。既に多くのアセットオーナーが同コード署名機関であることを運用委託の要件としており、特にアセットマネジャーは同コードに沿った対応を採ることが当然となってきていいます。
またそれをサポートするようにFRCは同コードに沿った開示内容の適切性について、署名機関を評価する取組を2016年より行っており、不十分と判断されれば最悪の場合、除名処分となります。
翻って、日本版スチュワードシップ・コードではESG要因は、投資先企業の
状況把握を規定した原則3において、指針3-3の把握すべき内容として触れられているのみです。上記の英国版と比較すると、1)指針から原則への格上げ、2)ESG要因の統合範囲を投資だけでなくスチュワードシップ活動への拡大という2点について、改善の余地を残していると言えます。
金融庁は2020年度内の日本版スチュワードシップ・コードの改訂を目指し、2019年9月より「スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」(令和元年度)を開催しています。その第2回会合では参考資料として上記の来年施行予定の英国版スチュワードシップ・コードが提出された。日本版スチュワードシップ・コードにおいてもESG要因の統合が一層前進することを期待したいと思います。