【曲からショート】めずらしい人生
川べりにたたずんでいた時だ。
どこかで音楽を聴いた気がした。
すれ違った自転車からこぼれたのか。はたまた、遠くのサイレンか。
何だろう懐かしい気持ち。
「音と香りは記憶を呼び覚ますんだって」
怪訝な表情で耳をすませている僕に、隣の君がこう言った。
「メロディー聴いて 思い出す場面とかあるじゃない?香りもそうだよね。シチューの匂いで冬の台所に立つお母さんを思い出したり」
君は笑う。
はたして僕の中で流れる音楽は幸せな記憶につながっているのだろうか。
少なくても君の、音楽のある風景は心地良いものばかりなんだろう。
自分で選んだ音楽を聴き始めたのは10代半ばだ。ラジオ。TV。友人からのオススメ。
次々と出会い僕に染み込んでいった。
20代。好みも年齢で変わる。
好きだった音楽が響かなくなったり、思いもしなかったジャンルを聴き漁ったり。
たまに恋人の好みに左右されたり。
一貫性のない音楽遍歴かもしれない。
君と出逢ったのは、少し後だ。
それから僕らは隣を歩いている。
「1番の思い出の曲ってある?」
ふいに尋ねられた。記憶の引き出しを探してみる。
どれだろう?1番と言われても。
「あるの?」
君にも聞いてみた。
「思い出がありすぎて決められないかな」
その答えはちょっとズルい。
拙いメロディーが耳の奥で蘇る。
これは何の曲だ?ピアノの音。ワンフレーズ。
指運びが滑らかさに欠けるのは幼かったからだ。子供時代の僕がピアノを弾いている。同じフレーズを繰り返し。
「浮かんだ」
僕の呟きに君が嬉しそうに反応した。
「何て?歌ってみてよ」
ねだられる。
「レレレレドシラシドシラ」
「なぁにそれ!」
君が盛大に笑った。
「何かのメロディだよ。よく憶えてないけど僕はピアノで弾いていた」
いつも音楽があった。幼い頃から今までずっと。僕の人生に寄り添うように。きっかけやなぐさめや力になって。
姿が見えなくなっても、どこかにちゃんと存在していた。
「人生に音楽はあったほうがいいな」
「突然深い話ね」
人生はいつか終わる。
音楽とともに、僕は僕の人生を生きるだけだ。
隣の君がさっきのワンフレーズを軽やかに口ずさんでいる。
君にも違う音楽が流れている。君の人生を彩ってきた音楽が。
僕と君は別々だけど、僕には君が必要だ。
いつか音楽を聴いたとき、君のことを思い出したい。
😃ピリカさんの企画に乗り、とりつかれたように書き続けた7日間でした。自分の引き出しを開けたり閉めたり。かき回したり。
音楽配信の発達で廃盤になってしまった作品を聴くことができる。素晴らしい時代✨
本作をラストソングといたします。
読んでくださった方、どうもありがとうございます。感想などお寄せいただけると嬉しいです。
ペンを置いたところで、皆様の「曲からチャレンジ」も覗きに行きますね😁
思いのままに書きまくり。
ああ!楽しかった〜!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?