ほのめかす、気にかかる〜美術館さんぽ8/6〜
「デ・キリコ展」東京都美術館
キリコを見たのは美術検定の過去問題集だった。異型の2人が、ぽかんと開けた場所で抱擁している。誰だろう、どこだろう、何なんだろう。
そんな疑問が渦巻いた。
美術館ノートを遡ったら、2005年に大丸ミュージアム・東京で「巨匠デ・キリコ展」を観ていた。
うちにあるポストカードは多分そのときに買い求めたものだ。
『日本では10年ぶりの大回顧展です』
本展のチラシにはそう書いてある。
2014年にキリコを観た記録は残っていないから、私にとっては19年ぶりのキリコ展だ。
SECTION1は自画像と肖像画。
作品のイメージが強すぎて、キリコの顔を失念していたが、何枚もの自画像がそこに。
いたずらっぽい大きな瞳、たくらんだような口元。おしゃれにスーツを着こなしている。
41歳、 53歳、 60歳。製作された年の順に並んだキリコの顔を眺め、時の移ろいを感じることができた。
90歳で没するまで、人生を楽しんでいた様子がうかがえる。奇妙な巨大ミュージアムとは!
なんてワクワクする響きなんだろう。
キリコの作品は「形而上絵画」と名付けられている。まずこの「形而上」に首をひねった。
うーん…。
少しはわかるかな…。
フロアを歩きながら気づく。
展示パネルの形が、まっすぐじゃない。少しいびつ。これも「ほのめかし」なの?
ほのめかしは他にもあった。
《弟の肖像》キリコによく似た弟が描かれているが、背景に奇妙なものがいる。半人半獣。あれは…ケンタウロス?何故!
《自画像のある静物》は前面に積まれた果物の奥、小さな額の中にキリコがいた。
SECTION2 形而上絵画のイタリア広場には
バラ色の塔が繰り返し描かれる。
メインだったり、背景の片隅だったり。振り向けばいた、みたいな。キリコは以前のモティーフや自作の引用や複製をしていたらしい。
遊び心を持って組み立て、解体し、再構成した。
コクトーの本の挿絵も展示されていたのだけど、
これもまた奇妙満載。
《神秘的な水浴》
《白鳥のいる神秘的な水浴》
《神秘的な脱衣室の下で》
《神秘的な会話》
「神秘的な」が多用されているが、脱衣室に至ってはその神秘性が謎。
歪んだ遠近法や、現実にはありえない不思議な風景。謎という言葉がしっくりくる。
納得いかないんだけど、気になってしょうがない。目が離せなくなる。
線や色合いもスタイリッシュだ。
私が初めに見た異型の2人は「マヌカン」だったようだ。
理性的な意識を奪われた人間として、絵画の中に現れてくる。
目も鼻も口もない。だから表情がない。観ていると戸惑うし不安になる。
なのに体の動きはなめらかで、こちらに表情や感情を想像させる。
何故、どうして。
キャンバスの奥へ、もっと踏み込みたい。
そう思わせる展覧会だった。
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