【読むミニドラマ】ヨシコトヨヒコ その7
第7話「ヨシコがドアを開けたなら」
夜勤明けは朝になったら帰れると思うでしょう?
帰れないのよ。知ってた?
引き継ぎやら不測の事態やら。ただでさえも人手不足の職場。
バタバタしてるのを無視できず手伝っていたらこんな時間。
お疲れさまさま。頑張ってる私。
夜勤明けはテンションがおかしい。
ブツブツ半笑いで呟く危ない女が1人、家路に辿り着きましたとさ。
「お帰りお疲れ〜」
ドアを開けたらトヨヒコがいた。
塾講師のトヨヒコは午後からの勤務だからこの時間はまだ家にいるのだ。
「ただいま、疲れた〜」
リュックを置いて洗面所に向かう。
うがい手洗い忘れずに。清潔は基本だ。
ついでに着替えようか。お風呂の後でいいや。
「これから俺も食べるとこ。待ってたんだ」
見れば食卓に鍋がセットされている。
すごくいい匂い。もしやこれは…。
「スキヤキ!」
湯気が立つ。ぐつぐつ。
卵を溶きながらトヨヒコは言った。
「昨日買い物行ったら牛肉半額でさ。スキヤキ食べたくなっちゃって」
はい、と取皿を渡される。
「食いなされ、お嬢さん」
幸せ。
帰ったら美味しいごはんがあってトヨヒコがいて。
空腹に甘辛味がしみわたる(季語なし)。