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【曲からショート】夕暮れ電車に飛び乗れ

このまま直帰でいいそうです。

事務の女の子は電話口でそう告げた。地方の取引先への半日出張。泊まりか日帰りかの微妙な距離だった。今から帰社するのは正直億劫だったのだ。

無人駅かと思うくらいに人がいない。なにせ電車の本数が1時間に2本だ。5分待てば次の電車が到着する東京とは比べ物にならない。
気を利かせた取引先が電車に合わせて駅まで送ってくれたが、それでもあと20分もある。手持ち無沙汰だ。仕方なくベンチに腰を下ろすことにした。

ここは故郷に似ている。

木々が風に揺れる音を聞きながら、いつしか目を閉じていた。頬を撫でる風の感触。濃い緑の匂い。人のいない駅のホーム。

その中に彼女の姿が現れた。僕の電車の到着を毎朝待っていた彼女が。

僕の学校の女子とは違うデザインのスカートが風に揺れる。チェック柄を眩しく思いながら手を振った。

おはよう。彼女が電車に乗り込んでくる。僕の隣に座った。

学校の違う僕達は毎朝の通学時間の一部をデートに当てていた。

彼女が提案したのだ。帰りは遅くなると怒られちゃうから早起きして朝に会おうよと。

夕方には店が閉まってしまう、娯楽の少ない土地だった。

互いの学校の話をする。テストが近いとか先輩が怖いとか。同い年だった。


東京と違ってひと駅の距離が長い。次の駅まで歩けないほどの距離がある。

田園。たまに民家。

流れていく景色を背中に延々と僕たちは話した。時間を惜しむように。

彼女と過ごせる朝の時間はほんの20分だった。


次の電車がまいります。

機械的なアナウンスに気付き跳ね起きた。どうやら寝てしまったらしい。朝が早かったせいもあるが、心地よい風に誘われたのもある。ベンチから立ち上がり軽く伸びをした。

踏切の音がする。それにかぶせるように木々がざわっと揺れた。目を開けたら彼女の姿は消えていた。

ふと思い立ちスマホを取り出す。
この時間ならいるかな。呼び出し音が2回。すぐに明るい声がした。

「なぁに?どうしたの?」

のんびりした声。

「まだ出先。直帰になったんだ。久しぶりに外でメシ食わないか?」

やったぁ!妻の弾んだ声がする。

「あ、電車来た!また連絡するから」

慌てて通話を終える。夕暮れに染まりかけた電車に僕は飛び乗った。

企画元のピリカさんが連投なさったので、勢いづいて私も🤭

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