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【企画参加】「初夢とふいうち」

目の前に漆黒が広がる。

「これが何色に見える?」

その者は私に問いかけた。背を向けている。広げられたのはマントか背中か、あるいは羽根か。正直私にはその者の正体が何なのか分からなかった。
「黒だと思います」
会話が成立しているのだから、人間なのだろうか。私は見たままを答えた。
「本当に?」
疑うような声が返ってくる。漆黒はさらに深まった。
「黒は決してひとつの色ではない」
声の主はそう言い残して消えた。
これが私の初夢だ。

「何だか不気味だね」
共感してるふりをしながら、視線はスマホだ。多分ゲーム 。私の言うことなんて聞き流してるに違いない。
冷めたコーヒーを持て余し、沈黙にも耐えかね、私は彼に初夢の話をしたのだった。
「縁起悪そうだよね」
呟く。それに対しての答えはなかった。

最近こんなふうだ。一緒にいても会話が盛り上がらない。同じ場所にいるのに離れているみたい。わけもなくイラッとする。それが本音だった。

もうやめちゃおうかな。

これも本音になりかけている。


「あっ」

次の瞬間真っ暗になった。

リビングの端と端にいた私と彼は同時に声を上げた。停電だった。いつもは窓越しに見える向かいのマンションの規則的な灯りがない。電光掲示板も外灯も何もかもが消えている。ファンヒーターの音も消え、家電の小さなランプさえ見えなくなった。

何よりも、彼の顔が見えない。ここまでの暗さは初めての経験だった。こわごわと手を伸ばす。たぶんここはテーブル。持っていたカップをそっと置いた。

彼は対角線上のカーペットに座っていたはずだ。
「果歩?」
声がする。声はするけど距離感がつかめない。
「停電みたいだ。スマホも落ちちゃってライトも使えない」
ゴソゴソ音がする。
「こういう時は下手に動かないほうがいい」私はじっとしていた。
これからどうしよう。不安が募る。
闇の中では時間もわからない。あれから何分経ったんだろうか。
同じ姿勢で固まったまま、彼の気配を探る。どこにいるの。
「果歩」
しばらくして彼の声が聞こえた。
瞬間目を細める。眩しい。
細い光が私に伸びている。
「ごめん」
しかめ面の私から光がずらされる。
ゆっくり目を開けると彼が近くにいた。
「防災用に持ち歩いてたんだ」
ミニライトだった。
「大丈夫?」 
冷たい指先が頬に触れた。濡れている。
「そんなに怖かったのか」
そのとき初めて自分が泣いていたことに気がついた。

不安だったのだ。日頃仕舞い込んでいた気持ちが、暗闇で増幅したらしい。
気持ちが高ぶったことにしておく。
「大丈夫そのうち復旧するから」
あやすように背中をポンポンとされた。黙ったまま体重を預ける。
ミニライトの頼りない光がかすかな灯りをともす。(1091文字)

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