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alinco_life
【手のひらの話】「あれはきっとバトン」
予報よりも早く空が重くなった。
雨音に戸惑う人たち。薄いブルーの肩先はみるみる間に染まっていく。あいにく傘はない。
不動産屋の軒先に駆け込む女の子がいた。
ポニーテールを揺らしながら駆け込む。天気予報を知らなかったのか、丸い目で空を見上げている。
その横を通り過ぎたふたりの女性。それぞれが傘を持ち、悠然とお喋りしながら歩いている。
次の瞬間。
ひとりが女の子に傘を差し出した。知り合いではなさそう。
渡されたから受け取ったものの、口をぱくぱく。いいの?これ。
女性はもうひとりの傘にスイッと入り、何もなかったかのように歩き去った。
あれはきっとバトンだ。
一見ただのビニール傘だけど。
女性から女の子への優しいバトン。