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【祈り】地上の王国 捨ててからまた拾う時に

彼女は静寂を愛して

規律に服する。

この世は無常と解しつつも

永遠と真理を求め続ける。

そしてただひたすらに

あるがままで在りたいのだ。


地上のときが定める限り。

召命を受けて御許に呼ばれるまで。


思いを主張することをはばかり

創られた劣情の物語を厭い

騒がしきおしゃべりから遠ざかり

比較の精神から生じた卑しき心に憤り

隣人の話をあるがままに受け入れて

同情の心をもって人に接して


なにより肉体に宿っている欲情を憎んだ。


そして心の深奥に秘められている

普遍で唯一の真なる御方を

追い求めていた。



ある日彼女は疑いを抱いた。

なぜあの御方は肉の器に

抑えがたい肉欲をそなえられたのか。



求道の心と汚らしき情動

日々の葛藤はやむことがない

心で相反する信念がぶつかることも

あのお方の導きなのだろうか。



日々深まる疑心に

ついに彼女は耐えられなくなった。

すべてをそのままに任せて

自らを毀棄したのだ。


たがが外された情欲はとどまることを知らない。

情動に流されあらゆる享楽をした。

しかし底なし沼の如く

肉の器の欲は貧欲に求め続けた。



彼女の時は未だ戻ってこない。

もし…私は救われないという絶望の罪に陥らず

かつて信じたものに立ち返る時にめぐりあえば

以前より堅い信仰を抱くことだろう。



地上は自我と欲望の王国。

そこでは肉体と人の情念が力をふるう。

一人の人間では立ち向かうこともできない。



地上で何かを真に欲するのなら

一度それを捨てなければならない。

それは小さき地上の器が

望んでいるものに囚われないようにするため。


…賜った運命を謙譲の精神をもって受け入れるために…



それがどんなに高貴な望みでも

執心が起これば、心を損なわずにすまないのだ。

執着は容易に魂の目をくらまして

あの御方の声すらも聞こえなくなる。


信仰でも、それが堅牢なものになるには

一度はそれを捨てなければならないのだ。

捨てて、また授かる

その時、信仰はその人を傷つけることも

傲慢にすることもない。




この先彼女がくぐり抜けなければならない闇は深い。

だが彼女が見捨てられることもない。



己の無力さを受け入れて

すべてを御方にゆだねて

ただ一言「お救いください」と祈る時

彼女は二度目の生誕を果たすのだ。

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