つかめば零れる日々
飽きもせずに
寄せては返す波が
限りなく軽そうな
細かい砂粒を
かき鳴らしている。
一匹のよごれたカモメが
向かい風に抗いながら
空高く翔ぼうとしている
郷里の海。
水平線の紺碧が
やや東に傾いた
太陽の輝きを跳ね返している。
数え切れない輝きの断片が
細めた瞼の裏にまで
突き刺さってくる。
淡い光で満たされた視覚の中で
もう二度と戻らぬ日々を
かすれゆく記憶たちを
ひそかに思い出す。
思い出たちを慈しむように
目をそっと閉じて
踝を濡らす波に
そっと指を入れ
黄土色の粒たちを
すくってみる。
指からこぼれた砂が
優しく泡立つ波間に落ち
わずかに起きた不協和音で
現し世に立ち返る。
さようなら。
背中のはるか遠くで
ゆっくりと薄れゆく
幻の日々よ。
永劫に還ることのない
穏やかな光。
今、私がこぼす涙とともに
どうかやすらかに
逝くがいい。