癒やしの力
先生との出会い
12年ぐらい前だったかな。とある知り合いに勧められて、占い師の先生がいるというアパートの一室に招かれたことがある。そこでは、先生が気の力で僕のチャクラを開いてくれるそうだ。勿論有料なんだけれど、お金はその知り合いが支払ってくれていた。額は知らないけど多分高額だし、よっぽど僕と先生を会わせたかったんだろう。
チャクラ
チャクラ(梵: चक्र, cakra; 英: chakra)は、サンスクリットで円、円盤、車輪、轆轤(ろくろ)を意味する語である。 ヒンドゥー教のタントラやハタ・ヨーガ、仏教の後期密教では、人体の頭部、胸部、腹部などにあるとされる中枢を指す言葉として用いられる。
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ちなみに僕は、占いも手かざしも信じない。でも、昔から超常現象みたいなきな臭いものには興味津々だったし、僕にとっては最高のエンタメだ。こんなチャンス断る訳がない。(占いや手かざしを信じる人を否定している訳ではない。あくまでも僕の主観だからあしからず。)
対面
国道沿い、二階建てのアパートの一階。扉を開けると少しふくよかな男性がいた。この人が先生だ。にこやかで物腰の柔らかい嘘くさい顔をしていた。
話を聞くと、どうやら午前、午後との二部構成らしい。午前の部では座学で気(キ)について学び、午後からは実践で先生が僕に気を送ってくれるらしい。いや、怖いわ。
そして始まった授業、いくつかの手かざしの印の切り方を教えてくれ、ハイヤーセルフやインナーチャイルドなどの用語説明を受ける。これは、全て持参したノートに筆記させられた。
※ハイヤーセルフ…自分の全ての転生を司る高次の自己。
※インナーチャイルド…自分の中にある「内なる子ども」
インナーチャイルド
要約するとこうだ、僕たちは生まれた時には気の通り道であるチャクラが開いている状態だけれど、成長し大人を演じている中で様々なストレスにより、自分の中にある子どもとしての精神性を閉じ込めてしまい、同時にチャクラも閉じ、気を扱えなくなってしまう。先生は、僕の閉じてしまったチャクラを開放し、傷ついたインナーチャイルドを癒やし、高次元の自分(ハイヤーセルフ)と繋がる手助けをしてくれるそうだ。
とってもよくわからない…
午前の部が終わり、一時間の昼休憩となった。僕は近所の喫茶店で生姜焼き定食を食べる。あれ美味かったな。
解放の儀
そして始まる午後の部、先生の隣に若い女性がいる。(誰やねん。絶対そういう関係やろ。)
僕はパイプ椅子に座らされ、少し離れた位置で先生は片膝を立てしゃがんでいる。そして、吹き矢のように手を口に当て、僕に息を吹きかけてくる。気を送りチャクラを開放してくれているようだ。先生の生暖かい息が僕にたくさんふりかかった。
…
…
「どうですか?」
先生が僕に尋ねる。
「なんだか体がポカポカします。」
僕は嘘をつく。
先生はご満悦の表情だ。そして僕のチャクラを開放すると、次はあなたが気を送って見なさい。と先生が言う。どうやら、僕にも手かざしがの力が備わったようだ。
ハンター試験
そして、先ほどの女性がガラスコップに水を入れ、それを机に二個並べた。
先生が「片方の水に気を通してください」と言う。午前中に学んだ印の切り方で、この水に僕の気を送るよう指示された。(いや、ハンターハンターの水見式かい。ならば特質系であってほしいわ。)
僕はハンター試験に合格するため、否…
先生の期待に答えるため、全身全霊で手に気をため印を切り、水に送り込んだ。
「気を送っていない方の水を先に飲んでみてください。」
…先生の指示通り飲んでみる。普通の水だ。
「では、気を送った方の水を飲んでみてください。」
…こちらも飲んでみる。普通の水だ。
「どうですか、味に変化はありますか。」
と先生に尋ねられた。
「そうですね。気を送った水は舌がピリピリします。」
と僕は嘘をつく。
先生はとても驚いていた。「だいたい、気を送ると甘くなったりするんだけど、そんな答えは珍しい」と言う先生は、再びご満悦の表情を浮かべていた。
追伸
風の噂で先生はお亡くなりになられたと聞きました。その節は大変ありがとうございました。御冥福をお祈り申し上げます。