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超アナログで非効率な年賀状から学んだ古き良き厄介な教え

小学校教員になって10年。僕が尊敬する先生がいます。それは僕が小学校1、2年生の時に担任してくださった先生。当時おそらく50歳近くの女性の先生です。

1.先生との思い出

先生との思い出は、正直あまり覚えていません。覚えていることは、とても優しかったこと。叱られた記憶がありません。叱られることはたくさんしたと思うのですが、諭すような話をたくさんしてくれました。そして休み時間には毎日外で鬼ごっこや遊具で遊んでくれました。40歳も年の離れたおばさん先生。なのに、活発な小学生男子の心をがっちり掴んでいました。それだけではありません。なんと僕が進級してからも毎年年賀状を送ってくださったのです。

2.毎年届く先生からの年賀状

先生からの年賀状は、大人になった今でも毎年届きます。毎年必ず手書きの一筆を添えて。多くの人に送るからでしょうか、達筆な字で「成長多き一年にしてください」など短文が書かれています。

僕は数年はお返しした気がするのですが、部活が忙しくなった頃からは全く返さなくなりました。

そのうち実家を離れて大学へ通い、教師になりました。その間ずっと先生は年賀状を送り続けてくれていました。僕が実家を離れた後も、毎年実家に送ってくださっていました。なぜこんなにも毎年送ってくれるのか、僕にはわかりませんでした。教え子全員に書いているのか?もしそうだとしたら毎年一体何枚年賀状を書いているのだろう?送っても返ってこない教え子に年賀状を送り続ける気持ちとは、一体何なんだろう?毎年年賀状をいただくたびにそんな疑問が浮かんでは消え、浮かんでは消え。小学校を卒業して以降、会うこともなかったので、先生の気持ちなど全く知る由もありませんでした。

3.年賀状が気づかせてくれた先生の偉大さ

教師になって5年ほどが経ったころ、実家の母が言いました。

「今年こそ、ちゃんと先生に年賀状送らなあかん」

小学生のように注意されてしまいました。確かに先生と同じ教師となったわけだし、一社会人として、きちんとすべきことはやっておいた方がいいか。そんな気持ちで近況を報告する内容の年賀状を送りました。

内容を考えているうちに浮かんでくる先生との思い出。それはとてつもなくぼんやりとして、薄れていました。しかしふと思いました。

僕は別に先生に憧れて小学校の教師になったわけではありません。でも、小学校の先生は休み時間に子どもたちと遊んでなんぼだろと思って、毎日遊ぶようにしていました。50歳近いおばさん先生が僕みたいに活発な小学生男子と毎日遊んでたんだから、男がやらないでどうするんだ。

年賀状だって毎年送ります。担任してる子はもちろん、返してくれる教え子にはずっと送り続けています。一年ポッキリの付き合いみたいで嫌だったから。先生みたいに返してこない人に送り続ける根性はないけど、大切な縁は残していたい。そう思ったから。

そんなことを考えていたら、僕の心に先生の想いがしっかり染み付いていたことに気がつきました。50歳にもなって、普通子どもと外で走り回るか?年齢を理由にして遊ばない先生だっていっぱいいる。年賀状だって。普通そんなに送らなくてもいい。ましてや小学校低学年の時に担任してくれただけだ。その後も多くの先生と出会うわけだし。そんな人一人もいなかった。なんか逆にすごい。いつしか先生の姿を追いかけてたんだな。

教師になったから分かる先生のすごさ、偉大さ。すごい大事にされてたんだ。理解するのに20年近くかかりました。その間一度も会ってないけど、気づかぬ間に僕の尊敬する理想の教師像となっていました。

そんな想いを伝えるにも恥ずかしいくらいに過ぎてしまった年月。何年も年賀状を返さなかった教え子が、今更尊敬してますだなんて。変なプライドが邪魔をして、年賀状には結局近況報告を添えて送りました。

4.僕を励ます年賀状

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先生との年賀状のやり取りは毎年続いています。先生からの年賀状は毎年同じように僕を励ます一筆が添えられているだけです。だから先生が今何をしているのか、どんな想いで毎年年賀状を送ってくださっていたのか、全く知りません。それでも僕はこれからも先生に年賀状を送り続けようと思います。先生のおかげで今年も頑張れます。先生のおかげで教師として上手くやれています。そして先生のおかげで僕と教え子の年賀状も続くようになりました。教え子からの年賀状ほど嬉しいものはありません。教え子からの近況報告は一年のエネルギーになります。こんな素晴らしさを知ったら、年賀状やめられないですよね、先生。

5.先生の古き良き厄介な教え

僕の職場では、休み時間に子どもたちと外で遊ぶ先生があまりいません。僕より若い先生もインドア派が多いようです。働き方改革が進む中、効率的に仕事をこなす先生がよしとされる時代へと変わりつつあります。休み時間にもせかせかと仕事をこなし残業を減らす。素晴らしい姿勢です。僕も定時退勤をめざす一人です。でも休み時間くらいは、子どもたちと目一杯遊びたいと思います。それが教師の醍醐味だと思ってるし、そんな先生の姿に憧れてるから。

年賀状だってとてつもなくアナログです。一筆も添えて。すごく時間がかかります。でも僕は続けていくと思います。それが僕の励みになっているからです。いつまでも原点を忘れずに頑張れる気がするからです。

先生が僕の心に染み込ませてくれたものは、とても非効率で厄介なものかもしれません。世の中がデジタル革命へと歩みを進めているのに、平成のゆとり教育の香りがぷんぷん匂ってくるようです。でも、そんなことをしている時間に幸せを感じてしまっている自分もいます。先生の古き良き香りのする厄介な教えを、僕はもう少し楽しんみようと思います。

みなさまもよいを年をお迎えください。

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