世界史 論述問題に向けて
はじめに
今回は大学入試の一般選抜における世界史の論述問題について、普段受験生に課外授業でお話していることをまとめました。論述問題は、知識に基づき思考力・判断力・表現力をはかる試験形式です。国公立2次や私大の一部で出題されます。
前回の記事(下のリンク参照)と合わせて、参考になれば幸いです。
論述問題とは
大学により問題の形式や内容が異なります。パターンとしては、次の3種類あるというイメージです。
知識説明型:語句の意味を説明する等、教科書の一部をそのまま記述する
論理構成型:問題文の条件にそって知識を組み合わせて論述する
資料読解型:資料から読み取れる情報を活用して論述する
難関大は2型が多かったのですが、近年3型や3型と複合するような形態の論述問題が出題されています。
さて、大学はどのようなねらいで問題を出題しているのでしょうか。近年、出題の意図や解答例を公表する大学も出てきました。たとえば東京大学は2次試験の試験問題の解答や出題意図等を、大学ホームページ上で公表しています。さすがに論述問題の解答例は示されていませんが、出題意図や大論述の解法が示されているのは時代の変化を感じますね。
そこに書かれていた世界史の出題意図を引用します。
ここで述べられていることは、必ずしも他大学にあてはまるわけではありません。たとえば、問題を見比べればわかりますが、指示やヒントの与え方からいって、東大が求めている事と京都大学が求めている事は異なっています。
とはいえ、後段に述べられていることは、基本的な論述問題に対する考えとして非常に参考になります。論述問題を解く際は、基本的には次の流れとなります。
問題文を読解し、設問の要求を正確に理解する。
設問の要求にそって、知識や史料から読み取れる事項を活用し、解答する文章の構成を検討する。
構成にそって、解答の文章を作成する。
出題者の意図にそった答案を作り上げなければいけませんが、そのためには1にあるように問題文を読んで、設問の要求を正確に理解することが重要です。東大の先生が「当たり前」と書かれていますが、なかなかこれが慣れないと難しいのではないかと思います。
実際に京大の問題を解いてみよう
では実際の入試問題を使って、論述試験の解法を解説していきましょう。今回は京都大学の2009年の入試問題を使います。
1.問題文の読解
まず、問題文を読んで、この問題は何を問うているのかを読み取りましょう。基本的には、問題文の「説明せよ」の目的語を探します。今回の場合は、「新・旧両世界に引き起こされた直接の変化」が目的語にあたるので、これを解答する問題だとわかります。
次に世界史の論述においては、どの年代についてか、どの地域的な範囲を扱うのかを確認します。今回は、年代についてはコロンブスによる「新大陸」の発見後の前後の時代、地域的には新世界・旧世界ということが問題文から読み取れます。
新世界・旧世界とはどのような地域を指すのでしょうか。基本的には新世界・旧世界が新大陸・旧大陸を指すものだと考えられます。新大陸は、問題文にある通り、15世紀末以後、ヨーロッパ人によって新しく到達し開拓された大陸。ここでは南北アメリカ大陸を指します。一方旧大陸はアメリカ大陸到達以前からヨーロッパ人に知られていた大陸ですから、アジア・ヨーロッパからなるユーラシア大陸やアフリカ大陸を指します。
したがって、コロンブスによる「新大陸」の発見前後で、南北アメリカ大陸やユーラシア大陸(アジア・ヨーロッパ)でどのような変化が起きたのかを書けばよいという事になります。南北アメリカ大陸だけとかヨーロッパだけしか書かれていないと、設問の要求を満たせていないことになってしまいます。
2.文章の構成検討
では次に、設問の要求に沿って、文章の構成を検討するのですが、今回の場合は指定時数の300字のうち、新大陸と旧大陸で半分ずつ記述するイメージで考えていけばよいでしょう。時系列に論じる場合は年表形式、いくつかの項目ごとに整理する場合はマトリクスなどを活用すると、うまく情報が整理できるのではないかと思います。
さて、多くの入試問題には、より正確な採点を行うために、ある程度解答の方向性をしぼりこむための条件付けがなされる場合が多いです。指定語句をつけるというのもよく行われる方法で、今回は「先住民」と「産物」という二つの語句が与えられています。
「先住民」はヨーロッパ人が到達する以前から「新大陸」にいた人びとを指すのだとわかり、「新大陸」の論述で使用すればよいのだとすぐわかります。
一方、「産物」は少しイメージがわからないかもしれませんが、前に一字つければ、「農」産物や「鉱」産物として使うことができます。農産物であれば新大陸原産の作物、鉱産物であれば新大陸から産出される金・銀にふれることができるのではないかと思います。
これらをふまえて、情報を整理してみましょう。自分の中で覚えている知識で大丈夫なので、使えそうな情報を整理し、次のようにまとめてみましょう(ここでは逆に見づらいかと思い、図式化はしませんでした)。
〇旧大陸の変化
西欧での価格革命…新大陸銀の流入→物価騰貴→封建社会の崩壊
西欧での商業革命…東方交易→インド洋交易・大西洋交易の活性化→大西洋岸都市の発展
新大陸原産の農産物伝来→食糧事情や食生活の変化
東アジアへの銀流入→中国での貨幣経済の進展・貧富の差拡大
◯新大陸の変化
先住民の王国がスペイン人の「征服者」により破壊、奴隷化
エンコミエンダ制に基づき、先住民が大農園や銀鉱山で酷使
過酷な労働や伝染病の流行による先住民人口の激減
代替労働力としてアフリカから黒人奴隷が輸入
ここまで整理した内容をもとに、残り時間を目いっぱい使って答案を作成してみましょう。
日頃の取り組みや受験勉強
最後に論述を解く力をつけるために、日々どのような取り組みを行っていけばよいでしょうか。
まず、お伝えしたいのは、論述対策に教科書は欠かせないということです。日々の学習の中で、是非教科書の通読を行ってください。教科書は知識を理解するために使うだけでなく、歴史叙述の模範的な文章として参考になります。知識が十分定着するまでは、教科書の文章を使いながら、答案を作成するのでも十分良い訓練になります。
また、山川出版社の詳説世界史と東京書籍や帝国書院の教科書など、複数の教科書を読み比べてみるのも良いでしょう。教科書によっては、同じ事象でも異なる記述があるばかりか、章立てや時代区分が異なるケースもあります。そもそも特定の教科書にしか載っていないような話が出題されることすらあります(良い事ではありませんが)。
次にお伝えしたいのは、過去問研究は、まずは質を重視するべきということです(もちろん最終的には量的な演習は必要です)。これは別の記事でも書きましたが、最初の段階は前年の過去問を使って、じっくり取り組んで、教科書等を用いて良いので、自分なりの合格答案を作り上げていきましょう。塾などで量をこなすことを求められる場合がありますが、まずは大学がどんな力を求めているのかを探ることが重要です。
知識が十分に備わっていない段階で、過去問を毎日解くなどの乱雑な取り組み方を行うのには私は賛成ではありません。大学によっては近年傾向が変わり、現在の傾向の問題が限られている場合があります。過去問のストックは大事に使っていきたいところです。
また過去に出題されたテーマが再び出題される大学もあれば、基本的には出題されない大学もあります。他の大学で出題された流行のテーマが、別の年に別の大学で出題される場合もあります。自分の志望校やその年のトレンドを理解した上で、効果的な対策を行っていく必要があるかと思います。
おわりに
今回は論述対策講座を課外授業で行う際に、受験生に話す概論的な説明を改めて整理し直して、まとめたものです。今後はいくつかの大学の入試問題を事例に挙げて、解説してみたいと思います。他の記事も読んでいただけると幸いです。
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