大学入学共通テスト世界史B2023解説
はじめに
今回は2023年1月14日(土)に実施された「大学入学共通テスト世界史B」の解説をしていきます。
難化したと言われている今回の入試ですが、どういったところに着目して読めばよいか、どのような思考や着眼が求められているかについても解説していければと思います。
参考:大学入試センター 世界史B 正解と配点
https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?d=428&f=abm00003319.pdf&n=R5_%E4%B8%96%E7%95%8C%E5%8F%B2B_%E6%9C%AC%E8%A9%A6%E9%A8%93%E3%81%AE%E6%AD%A3%E8%A7%A3.pdf
第1問 歴史の中の女性
A 女性参政権
問1 空欄( ア )の国の歴史について述べた文として最も適当なものを一つ選べ。
共テの世界史は最初は空所補充ですね。空所補充の設問は、まず空欄を含む1文を読んでください。それだけでわからない場合は範囲を広げましょう。今回の場合は、次のような文となっています。
フィンランドは、ナポレオン戦争中の1809年にロシアの支配下に入り、1917年にロシア革命を機に独立したという歴史をもつ国です。そのため、空欄( ア )はロシアのことを指すと考えられます。「帝国」というフレーズからも連想できると良いですね。
次に選択肢の検討をしよう。検討する際のポイントは、まずロシアについて書かれている文はどれか、文に書かれている出来事があっているか(事実の内容や年代)の2点だ。
4つの選択肢のうち、①と④がロシア、②はデンマーク、③はポーランドに関する記述だと推測できます。更に①と④の正誤を確認すると、①は北方戦争でロシアを破ったのがスウェーデンではなく、イギリスと書かれているため、誤りだとわかりますね。したがって、④が正解です。
問2 下線部aについて述べた文として最も適当なものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
これは、センター試験タイプの正誤問題です。単純な知識の確認です。下線部を確認しなくても解けるので、さくっと選択肢の正誤の判断をしましょう(選択肢が絞り込めなければ、年代が誤っていないかを疑ってください)。
①は、オスマン帝国は、「協商国」ではなく「同盟国」側で参戦したので誤り。
②は、フランス軍が、タンネンベルクではなくマルヌの戦いのことなので誤り。なお、タンネンベルクの戦いは、ロシア軍にドイツ軍が勝利した戦いのことで、ヒンデンブルクが英雄となったことで知られます。
④は、レーニンが発表したのは「平和に関する布告」なので誤り。「十四カ条の平和原則」はウィルソンが発表しました。
したがって、③が正解。
問3 生徒たちがまとめた次のメモの正誤について述べた文として最も適当なものを、後の①~⑥のうちから一つ選べ。
3つの文章の正誤組合せ問題。慌てずに、一文ずつ正誤の判断をしていけばよいでしょう。
まず室井さんのメモから
この文には「イギリス植民地の自治領化」と「女性参政権獲得」という2つのテーマ史の要素が含まれています。まず「自治領化」。ニュージーランドが自治領となったのは1907年。イギリス植民地の自治領化の時期は、2023年のラグビーワールドカップで時事として出題されたのかなと思います。
【確認】イギリス植民地の自治領化
1889 カナダ
1901 オーストラリア
1907 ニュージーランド
1910 南アフリカ
一方、女性参政権の獲得は1893年。世界で初めて女性参政権が認められたことで知られている。
この2点が理解できていれば、自治領となる前に、女性参政権が獲得されているとわかるため、誤りだとわかります。
次に渡部さんのメモを確認しましょう。
これは第4次選挙法改正のこと。この時に、21歳以上の男性の選挙権と30歳以上の女性の選挙権が認められた。同じように、大戦後には1919年のドイツ、20年のアメリカと女性参政権を獲得した国が増えてきます。
さて最後に佐藤さんのメモを見てみましょう。
キング牧師の公民権運動は、1960年代に行われた黒人の法的平等と政治参加を求める運動なので、年代が異なり誤り。
したがって、渡部さんのメモのみが正しいため、②「渡部さんのみ正しい」が正解となります。
B 中国史の中の女性
問4 文章中の空欄( イ )に入れる語句として最も適当なものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
これも先ほどの空欄補充と同様にまず、空欄前後の文を抜き出してください。
今回は空欄を含む文とその前の一文を引用しました。
この2つの文から空欄( イ )は
・女性が活発な状況が現れた背景
・著者の推測に基づく
ということがわかります。そこで、資料を読み、藤田さんが背景と考えた根拠にあたる筆者が推測を述べた箇所を探してみましょう。
では資料を見てみましょう。
前半の段落:南方の女性
後半の段落:北方の女性
この資料の最後に、「これらは、平城に都が置かれていた時代からの習わしであろうか」という一文があります。そのため、ここが筆者の推測を述べた箇所と考えられます。現代文で学習していると思いますが、筆者の推測を表す文末表現に注目することが重要です。
したがって、空欄( イ )に入るのは「平城に都が置かれていた時代」と同じ意味ないし近い意味の言葉が入ると推測できるでしょう。その上で選択肢を見てみましょう。
平城に都が置かれていたのは北魏のことなので、②が正解。
ちなみにまずは作問者が意図しているだろう解法で解いてみましたが、必ずしもここまで丁寧に読む必要はありません。先に選択肢を吟味すれば、時間を短縮できますね。6世紀後半という年代から、①と④は最初から削ることができ、空欄の内容が、北方の女性が活発な状況の背景だとわかれば、資料を全部読まなくても答えは②にたどりつきます。共通テストでは、いかに読む量を減らしていくかが重要になります。
問5 文章中の空欄( ウ )に入れる文として最も適当なものを一つ選べ。
この問題も空欄補充。先ほどの対話文の続きを見てみましょう。
教授の問いかけから、( ウ )には、中村さんが「中国に女性皇帝が出現する背景」と考えた根拠を入れればよいとわかりますね。中国に女性皇帝が出現したのは、唐代の則天武后のことだとわかりましたか?中村さんの発言は、直前の「北魏の影響により、北方では女性が活発な状況が現れた」という発言を受けたもので、中村さんは中国に女性皇帝が出現する背景にも北朝・北魏が関係すると考えたと推測できますね。
したがって、唐と北魏の関係を指摘した選択肢が正解となります。選択肢を見ると、
①が正解。
このように問4と問5はいずれも対話文から思考プロセスを丹念に読み取ることが求められる問題です。新傾向ですね。
問6 下線部bについて述べた文として最も適当なものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
下線部bは、「この時代以降の儒学」とあるため、魏晋南北朝期より後の儒学について書かれた選択肢を選べばよいことになります。
したがって、①は南朝、②は前漢、③は北魏なので誤り。④が正解。
第2問 世界史上の君主の継承
A フランス王家の家系図と紋章
問1 前の文章と家系図を参考にしつつ、前の図について述べた文として最も適当なものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
この設問も読まなければいけない情報量が多い。まずは、選択肢を見て、選択肢に書かれた根拠を資料から探そう。
たとえば、①の選択肢の場合、右の図柄に関する記述、またクレシ―の戦いに関する記述を、前の文章から探そう。
①:先生の発言から「金の鎖の図柄で、アンリ4世の母方の家系で使用されていた図柄」とあるため誤り。
②:左の図柄は後藤さんの発言から「ユリの図柄」だとわかる。また先生の発言から、「ユリの図柄は、アンリ4世が前の王朝とつながっていることを明確に表して」おり、この前の王朝はルイ9世、すなわちカペー朝だとわかるので、この文は正しい。
③そのような事は資料から読み取れず、事実とも異なるため誤り。
④家系図と先生の発言からナバラ王位は「母」から継承したことがわかるため誤り。
したがって、②が正しい。
問2 下線部aに関連して、ヨーロッパ各地におけるプロテスタントについて述べた文として最も適当なものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
久しぶりのセンター試験タイプの正誤問題。下線部は確認する必要はない。
②は、ツヴィングリはトマス=ミュンツァーの誤り。③のヘンリ7世はヘンリ8世の誤り。これはカトリックの動きなので誤り。したがって①が正解。
問3 文章中の空欄( ア )に入れる人物の名あ・いと、空欄( イ )に入れる文X・Yとの組合せとして正しいものを、後の①~④のうちから一つ選べ。
これは軽めの設問。先に選択肢を見ると、あ・Yとい・Xの組合せしかない。
その上で、空欄の箇所を見ると次のように書かれている。
ここから、空欄( ア )は宰相マザランの死後に親政を始めた国王が入るので、ルイ14世が正しい。したがってあ・Yの②が正解。
B ファーティマ朝のカリフの正統性
問4 文章中の空欄( ウ )の王朝が10世紀に支配していた半島の歴史について述べた文として最も適当なものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
まずは空欄を含む文を確認しよう。
10世紀にアッバース朝と並び、カリフと称したのはファーティマ朝と後ウマイヤ朝の2つ。後ウマイヤ朝が支配していた半島はイベリア半島だとわかる。そのため、あとはイベリア半島の歴史に関する正誤問題として、選択肢の正誤の判断を行えばよい。
まずはイベリア半島かどうか、そして選択肢の内容自体を確認する。すると、①はアナトリア、④はアラビア半島なので誤り。残った②と③のうち、②はムラービト朝ではなく、ナスル朝なので誤り、したがって③が正解。
問5 下線部bの歴史について述べた文として最も適当なものを一つ選べ。
下線部bは資料1から「カリフ」とわかるので、あとはイベリア半島の歴史に関する正誤問題として、選択肢の正誤の判断を行えばよい。
②はカリフ制が廃止されたのは20世紀のトルコ共和国成立後なので誤り。
③はカリフではなく、大アミールなので誤り。
④はマムルーク朝のことなので誤り。
したがって①が正解。
問6 資料1・2を参考にしつつ、ファーティマ朝の歴史とそのカリフについて述べた文として最も適当なものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
「資料1・2を参考にしつつ」という表現がある時は、資料1・2も読んで正誤判断を行おう。とはいえ、基本的にはこういう時も読む量を減らすために、選択肢の中で知識で正誤が判断できないかを確認するのが先。
この問題の選択肢はファーティマ朝に関する基本的な知識+資料から読み取れることとなっている。まずは前半部分だけ4つの文を確認してみよう。
①:アッバース朝は750年、ファーティマ朝は909年成立なので誤り
②:ファーティマ朝はシーア派が建てたので誤り
①と②が誤りが含まれるため、除外できる。そこで、③と④の後半部分を見ると、いずれも資料2に関する記述なので、資料2のみを読めばいいことになる。
資料2の2段落目には、アッバース朝カリフの手紙を証拠としてファーティマ朝のカリフをアリーの子孫だと認める記述(はっきりと証明という表現)があり、④の記述と一致しており、④が正解。
第3問 歴史知識に対する疑問や議論を通じた歴史への理解
A ナポレオンについて
問1 図の出来事が起こった際に、フランスを統治していた国王について述べた文として最も適当なものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
まずこの問題はナポレオンの話をしていることに気づこう。その上で、図についての対話文の記述を見てみよう。
このことからナポレオンがエルバ島から帰還する時の絵だとわかる。その際のフランス国王はルイ18世なので、そのことについて書かれた選択肢を選ぼう。
①はシャルル10世、②は国王ではなく、ロベスピエール、③はルイ16世のことなので誤り。したがって④が正解。
問2 文章中の空欄( ア )と( イ )に入れる地域の位置と、その位置を示す次の図中のa~cとの組合せとして正しいものを、後の①~⑥のうちから一つ選べ。
まずは空欄を含む文を見てみよう。
記述から( ア )はハイチ、( イ )はセントヘレナ島だとわかる。あとは地図を見て、その位置を答えればOK。地図を見ると、aがカリブ海のハイチ、bはエルバ島、cがセントヘレナ島なので。アがa、イはc。したがって②が正解。
B 科挙に関する授業
問3 文章中の空欄( ウ )の学問について述べた文として最も適当なものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
空欄を含む文を見てみよう。
宋代に生まれた新しい学問という記述から、( ウ )は宋学(朱子学)だとわかる。あとは宋学に関して述べた選択肢を選べばよい。
①は科挙が創設されたのは宋ではなく隋唐なので誤り。②は全真教の説明なので誤り。④は王守仁は明代に活動したので誤り。共通テストでは、王陽明ではなく王守仁という表記で出題されるのが慣例なので注意。
したがって、正解は③
問4 文章中の空欄( エ )に入れる文として最も適当なものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
空欄を含む文を見てみよう。今回は一文ではなく、話のまとまりごと抜き出してみる。
( エ )は、先生の以下の発言内容を具体的な歴史上の出来事で言い換えたものだと考えられる。
その出来事は、
顧炎武が同時代のこととして見聞していた。
→顧炎武は17世紀の人物と上に書かれている。
書院を拠点とした争いである。
という情報が読み取れる。
その上で選択肢を見ると
①~③の出来事は年代が異なるので誤りとわかる。内容からも年代からも④が正解。
このように、抽象化された記述から具体的な歴史上の出来事を連想する力を問う力は非常に重要であり、日ごろから簡潔にまとめられた教科書の記述から、歴史上の出来事に具体化したり、逆に具体的な出来事を抽象化してまとめる訓練を行う必要がある。
問5 下線部aについて述べた文あ・いと、前の文章から読み取れる朝鮮や日本で見られた人材登用制度に関する考えについて述べた文X・Yとの組合せとして正しいものを、後の①~④のうちから一つ選べ。
まず文章を見て、下線部aを確認しましょう。
科挙より以前の官吏登用法とは、漢代の郷挙里選、魏の九品中正のこと。この登用法についての選択肢あ・いを見ると、
あは郷挙里選、いは九品中正についての記述だとわかるが、いの後半部分、九品中正の結果、貴族の高官独占が抑制されたとあるため誤りだとわかります。実際は門閥貴族化が進んだ。
次に、朝鮮や日本で見られた人材登用に関する考え。これは文章の中にXとYと同じ内容がないかを探してみよう。
朝鮮についての記述を見ると、Xと同じような記述が見られる。
一方、日本についての記述では、Yと異なる記述が見られる。
ここまでの検討から、あとXが正しい組合せなので、①が正解。
C 中国における書籍分類の歴史
問6 文章中の空欄( オ )に入れる語と、( オ )を編纂した王朝について述べた文との組合せとして正しいものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
まずは、空欄を含む文を確認しよう。
( オ )は18世紀の中国で編纂された、「四」がつく書物だとわかる。選択肢を見ると
選択肢から、空欄の書物は、清朝の乾隆帝期に編纂された『四庫全書』だとわかる。また清朝の説明を選べばよいので、辮髪強制を選べばよい。
したがって正解は④。
なお、この18世紀と四庫全書を結びつけるパターンは、2021年度共通テストでも出題されている。〇世紀と中国王朝をリンクさせる学習は共通テスト対策で必須と言えよう。また、文献資料を出題する頻度の高い共通テストの文化史問題は、学問や書籍、歴史家や著述家の名前が出題される頻度が高いので、特に重点的な対策が必要。
問7 下の書籍あ・いが『漢書』芸文志の六芸略に掲載されているかどうかについて述べた文として最も適当なものを、後の①~④のうちから一つ選べ。
あ 『詩経』 い 『資治通鑑』
少しこれまでとテイストが異なる問題。
対話文から、漢書芸文志の六芸略にどのような書籍が掲載されているかを読み取ろう。資料2(漢書芸文志の六芸略に掲載されている一部の資料)を見た内藤さんは「高校で習った五経が含まれていますね」と答えている。
そのため、五経の一つである詩経は掲載されたと考えられ、漢書よりも後の宋代に編纂された資治通鑑は掲載されていないと考えられる。したがって、① あのみ掲載されている が正解と考えられる。
問8 前の文章を参考にしつつ、中国における書籍分類の歴史について述べた文として最も適当なものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
「前の文章を参考にしつつ」とあるので、前の文章を読んで正誤判断を行う必要があるが、まず知識でいける設問がないかを検討する。
② 木版印刷の技術は宋代に普及したので誤り
④ 宣教師の活動によって西洋の学術が中国に伝わって、伝統的な学問体系は維持されたので誤り。そもそもそれなら「四庫全書」というタイトルで18世紀に書籍が集大成されないはず。
残った①と③にあたる内容を対話文の中から探していこう。
①については、対話文の最後の教授の発言から、「1世紀には史部という分類自体存在しなかった」とあるので誤り。
③については、対話文を見ると、資料1の7世紀『隋書』経籍志を見た内藤さんが「挙げられたのはいずれも紀伝体の歴史書ですね」と指摘し、教授が「よく知っていますね」と応じているので正しい。
したがって①が正解。
第4問 世界史上の様々な歴史資料
A 東地中海と西アジアの貨幣
問1 貨幣1を発行した国、または貨幣2を発行した王朝について述べた文として最も適当なものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
対話文の中から、貨幣1と貨幣2に関する記述を探してみよう。
広田さんの発言から、貨幣1の発行国はビザンツ帝国(東ローマ帝国)、鈴木さんと佐々木さんの発言から、貨幣2の発行国はウマイヤ朝だとわかる。その上で選択肢を吟味しよう。
①はゾロアスター教ではなく、キリスト教なので誤り。
②は年代が異なるので誤り。
④はバグダードではなく、ダマスカスなので誤り。
したがって、③が正解。ユスティニアヌス帝の「ローマ法大全」を指しているのだろう。
問2 授業の後、生徒たちは授業の内容を基にメモを作成した。前の文章を参考にしつつ、生徒たちがまとめた次のメモの正誤について述べた文として最も適当なものを、後の①~④のうちから一つ選べ。
これは、先生の最後の発言をまとめたものなので正しい。
上述の佐々木さんの発言に加えて、鈴木さんの発言から「裏面で十字架が1本の棒の図柄が変えられている」と指摘されているため、正しい。
ソリドゥス金貨はコンスタンティヌス帝の治世に創設されたので誤り。
したがって、佐々木さんと鈴木さんの二人のみが正しいため、②が正解。
B 古代ギリシア
問3 文章中の空欄( ア )に入れる語句あ・いと、空欄( い )に入れる人物の名X~Zとの組合せとして正しいものを、後の①~⑥のうちから一つ選べ。
資料1・2はマラトンの戦いについて書かれている。そのことについて、書かれた話のまとまりを見てみよう。
まず( ア )から考えていこう。
太字で示した通り、松山さんの発言から( ア )に入る内容として「あ」は適当ではなく、直前の先生の発言から、松山さんが考察しているので「い」が入るのが適当。
次に( イ )について考えてみよう。( イ )には使者の人物の名前が入る。資料1では使者の名前はテルシッポス、資料2では使者の名前はフィリッピデスと記されている。
ここまでの議論から、松山さんは、マラトンの戦いが起こった時代に近い時代に生きていたヘラクレイデスの記録を資料として引用している資料1の方が、資料2よりも信頼できそうだと考えている。そのため、資料1のテルシッポスが( イ )に入ると考えられる。
したがって、いとYの組合せが正しく、⑤が正解。
この設問は、史料批判のプロセスを追体験するもので、今回の共通テストの中でも特徴的な設問と言える。
問4 文章中の空欄( ウ )の戦争について述べた文として最も適当なものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
空欄が含まれる一文を見てみよう。
ここから( ウ )はペルシア戦争だとわかるので、あとは選択肢の正誤判断を行うのみ。
②:この戦争で戦ったのはアケメネス朝。エフタルを滅ぼしたのはササン朝なので誤り。
③:アテネを盟主としたのはデロス同盟なので誤り。
④:プラタイアイの戦いで、ギリシア軍は勝利したので誤り。
したがって①が正解。
問5 前の文章を参考にしつつ、マラトンの戦いの勝利をアテネに伝えた使者について述べた文として最も適当なものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
「前の文章を参考にしつつ」とあるので、前の文章を読んで正誤判断を行う必要があるが、まず知識でいける設問がないかを検討する。
①:ペイシストラトスはペルシア戦争以前の人物なので誤り。
②:トゥキディデスの『歴史』はペロポネソス戦争の記述なので誤り。
と①と②は除外できる。残りの③と④を文章をもとに判断をする。
まず③。文章中にある「資料1を書いた人物は『対比列伝』を著した人物」という箇所から、プルタルコスが資料1を書いたことがわかる。資料1はテルシッポスとエウクレスという2人の人物についてふれられており、正しい。
一方、④について。ヘロドトスは、資料2にあるフィリッピデスをスパルタに派遣された使者として言及しているため、資料2の記述はヘロドトスの記述を正確に反映していないと言えるので誤り。
したがって③が正解。
C ブリテン島の修道士であったベーダが731年頃に執筆した著作の一部
問6 文章中の空欄( エ )に入れる語句と、資料1と資料2が示す「アングル人」について述べた文あ・いとの組合せとして正しいものを、後の①~④のうちから一つ選べ。
空欄に関わる部分を見てみよう。
資料1には「有力なゲルマン」とあるため、歴史的出来事は「ゲルマン人大移動」だとわかる。次に資料1と資料2が示す「アングル人」について述べた文は、それぞれどちらの資料を説明した文かを選べばよい。
資料1を見ると民族の移動が書かれており、資料2はブリテン島の言語について書かれている。そのため、資料1が「あ」、資料2が「い」に関する記述だとわかる。したがって、正解は③
問7 資料1~3で記されている出来事や事柄の年代が、古いものから順に正しく配列されているものを、次の①~⑥のうちから一つ選べ。
まずは資料を丁寧に見て、年代の特定に役立つヒントを探していこう。
資料1は注1からカルケドン公会議を開いた皇帝が即位した年とある。カルケドン公会議は451年なので、資料1は5世紀の出来事だとわかる。
資料2は「私ことベータが執筆している今のブリテン島」とあるため、前文から執筆したのは「731年」とわかるため、8世紀前半だとわかる。
資料3は、教皇グレゴリウス1世が出てくる。教皇グレゴリウス1世の治世は590年から604年であるから、若き日の頃であっても6世紀のことだろうと推測できる。
したがって、資料1→資料3→資料2と並べられる。しかし、考えてみれば、歴史書を執筆する際に、最も新しい時代となるのは筆者の同時代なので、教皇グレゴリウス1世がいつの時代かわからなくても、資料3が資料2よりも古いと判断できるはずだ。
そういった意味で非常に練られた良問だと言える。これに気付けるかどうかがこの問題を解くのに大きな分かれ道だと言える。
問8 下線部aに関連して、キリスト教が社会に与えた影響について述べた文として最も適当なものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
ここで小休止のように登場するセンター式設問。さくっと解いてしまおう。
①はローマ系住民の誤り。試行調査で出題済みのテーマ。③はミラノ勅令の誤り。④はウルバヌス2世の誤り。したがって、②が正解
第5問 社会経済史
A 東南アジアの植民地経済
最近はやりのアジア間貿易を出題。
問1 下線部aの歴史について述べた文として最も適当なものを一つ選べ。
イギリスの設問。やはり最終大問は少し軽め。
②は19世紀前半。③は南京条約。④は廃止したのではなく形成したので誤り。したがって①が正解。
問2 文章中の空欄( ア )に入れる国の名あ・いと、下線部bの背景として最も適当な文X・Yとの組合せとして正しいものを、後の①~④のうちから一つ選べ。
この問題も軽め。胃もたれしそうな第4問を抜けた後に、少しほっと一息つける設問が続くか、このあたりは時間との戦いである。
さて、表を見ると、フィリピンの輸出先で( ア )は圧倒的な1位となっていること。また、下線部bには「統計が取られた時点で、( ア )においてゴムの需要が高まっていたことから、自動車の大量生産を行い、普及が進み、フィリピンの宗主国であったアメリカ合衆国だとわかる。
とはいえ、そもそもアウトバーンが、1930年代のドイツのヒトラー政権で年代も異なるから間違えにくい問題。
問3 前の文章を参考にしつつ、1929年当時の東南アジア各地の経済と貿易について述べた文として最も適当なものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
「前の文章を参考にしつつ」とあるので、前の文章を読んで正誤判断を行う必要があるが、まず知識でいける設問がないかを検討する。
① コーヒー栽培が進められたインドネシアは、宗主国向けの輸出額の割合が4地域の中で最も低かった。
② ゴムプランテーションの労働者として移民が流入したマラヤは、インドシナの輸出額上位5地域の中に入っていた。
③ フィリピンでは強制栽培制度による商品作物生産がなされており、アジア向けの輸出額は全体の2割以下であった。
④ インドシナの輸出額において最大であった地域は、インドシナと同じ宗主国の植民地であった。
③は強制栽培制度はフィリピンではなくインドネシアなので誤り。
残りの①②④について、文章を見て判断しよう。
まず①
インドネシアの宗主国はオランダ。21%となっている。
他の地域と比較してみると
マラヤ 宗主国イギリス14.3%
フィリピン 宗主国アメリカ75.7%
インドシナ 宗主国フランス22.1%
となり、インドネシアが最も割合が小さいわけでないので誤り。
次は② インドシナの輸出先上位にマラヤがあるので正しい。
残った④ インドシナの輸出先1位は香港でイギリスの植民地なので誤り。したがって、正解は②
B 産業革命の歴史統計
問4 文章中の空欄( イ )と( ウ )に入れる文の組み合わせとして正しいものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
対話文を見ると高橋君が次のように発言している。
下記の選択肢と合わせると、( イ )には表1と表2から読み取った18世紀後半の変化、( ウ )には18世紀の出来事が入る。
① イ 表1を見ると、都市人口比率が上昇している
ウ 土地が囲い込まれ(第2次囲い込み)、新農法が導入された
② イ 表1を見ると、都市人口比率が減少している
ウ 鉄道建設が進み、全国的に鉄道の輸送網が完成した
③ イ 表2を見ると、農村農業人口100人当たりの総人口が上昇している
ウ 農業調整法(AAA)が制定され、農産物の生産量が調整された
④ イ 表2を見ると、農村農業人口100人当たりの総人口が減少している
ウ 穀物法の廃止により、穀物輸入が自由化された
表1・2を見て、イの選択肢を吟味しても良いが、ウの選択肢で絞り込みを先にした方が効率的には良いだろう。ウの選択肢を見比べると、なんと18世紀後半の出来事は①しかないので、正解は①
問5 文章中の空欄( エ )に入れる文として最も適当なものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
空欄が入っている文を確認しよう。
最終的にはグラフの説明としてあっているかどうかの判断だとわかる。
だが、まずは選択肢を知識で削れないか判断。
②:クロムウェルの征服は17世紀後半なので誤り
③:南北戦争の年代は1860年代なので誤り。
①と④まで絞り込める。残った①と④をグラフで判断しよう。
まず①。点線で示されたアイルランドの移民数が、1840年代後半から急激に伸び、1850年前後にピークが来ていることがグラフから読み取れるため、①の説明は正しい。
一方④は、実線で示されたイギリスからの移民数は、1890年から95年にかけて低下していると読み取れるため、④の説明は誤り。
したがって、①が正解。
問6 下線部cについて述べた文として最も適当なものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
対話文より、下線部cは「世界初の産業革命はイギリスで起こりました」とある。あとは選択肢の正誤判断をすればよいだけ。
①:アヘンが誤り。
③:ラダイト運動は機械制工場の出現で失業した職人や労働者が起こしたものなので目的が異なり、誤り。
④:工場法は工業労働者の保護を目的とし、9歳未満の児童労働の禁止や9~18歳未満の労働時間の制限を決めたものなので誤り。
したがって②が正解
まとめ
ここまで共通テストの全設問の解説をしてきました。少し簡単に思ったことを述べます。
まず設問ごとにかかる時間、読む量と考えなければいけない量が大きく異なります。
時間のかかる
第1問B 第2問A 第3問B 第3問C 第4問全般
比較的時間がかからない
第1問A 第2問B 第3問A 第5問
これまでも第1問Aと第5問は比較的軽く、第3問と第4問は重いという傾向がありました。もしかすると解く順番を変えたり、時間がかかっている場合、飛ばす・後回しにするなどの手段が有効かもしれません。
今回は抽象的な問題が減り、基本的には対話文や資料読解での思考が求められました。その分、全体的な読む分量が増え、所要時間も大幅に増えました。
これまでにも増してどこを読み、どこを読まずに解くかの判断が重要となってくるでしょう。設問文の中身自体は洗練され、共通テスト特有のパターンは確立しつつあると言えるので、過去問から設問の文形式を見て、どのように解くのかを瞬時に判断できるようにはしたいものです(今回の解説ではそのパターンわけも意識的に行っていました)。
最後に
日々の歴史学習での取り組みが重要なのは言うまでもありません。歴史理解は語句の暗記だけではなく、日々の学習の中で疑問をもったら調べ、地図や資料をもとに理解を深め、教科書の記述がなぜそのように書かれているかを考えるというところに尽きると思います。