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【小説】「twenty all 2」006

「なかなか理解が早いわね、井隼さん」
「そ、そうですか」
 今日から副書記として初めて生徒会室に顔を出した静香は、生徒会副会長の紺野真琴に直接指導を受けていた。

「うん、これならすぐ作業に入って貰えそうね」
「は、はい」
 昨年のミス都高にじっと見つめられた静香は、思わず身を固くする。
「書記の仕事は、ざっとこんな感じです」
「はい」
「分からない所があったら何でも聞いてね。前任者としてキチンとアドバイスしますから」
「有難うございます、副会長」


(夏の風景に、ショートカットが良く似合う人だなぁ)
 少し余裕が出てきた静香は、目の前に座っている真琴を冷静に分析し始めた。
(確か、空良さんと一時期ウワサになっていた人だ。もしかして今回副会長に立候補したのも……)
「私は、ソラ君が好きだよ」
「ふぇ!?」
 いきなり核心を突く真琴の言葉に、思考を読まれたのかと思った静香はフリーズする。
「ま、フラれちゃったけどね」
 あっけらかんと言った真琴、軽く舌を出した。
「でも、彼はいま成し遂げたい事があるみたいだから、私はその力になりたいの」
「一途、なのですね」
 その言葉は必ずしも適切ではないと感じながらも、静香はそう返してみた。
「んー、ちょっと違うかも」
 口元に指を当てて否定する真琴。
「一番近い表現をするなら、『想いを重ね合わせたい』かな」
「想い、ですか」
「ええ、井隼さんも同じなのでしょう?」
 え?と思った静香は、ようやく自分がどの様に見られているかを理解した。

「私は、空良さんにそういう気持ちはありません」
 彼女はハッキリ言った。
「勿論素敵な人だし、ある意味憧れの対象ではありますが」
 何せ、インターハイ個人準優勝選手である。
 弓の世界に身を置いている彼女にとって、身近でこれ程目標となる存在は居ないのだ。

「何だ、そっか」
 真琴は少しホッとした表情を浮かべた。
「ソラ君があまりに推薦するもんだから誤解しちゃった。ごめんね」
「いえ、気にしないで下さい」
 素直に頭を下げられて恐縮した静香は、何故彼が私を生徒会役員に推薦したのかを考えていた。

(空良さんの行動には、全て意味がある。
 私がここに居る事も、多分……)


「深い、人ですね」
「うん、そうだね」
「副会長は、そこに惹かれたのですか?」
「さぁ、どうだったかしら」
 まだ残暑の厳しさが続く生徒会室に、二人がクスリと笑う声が聞こえた。

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