【小説】「straight」066
「ねえねえ、光璃」
早めに会場に着いて準備体操をしていた光璃に、同じくストレッチ中の桔梗が声を掛けた。
「何?」
「気のせいかな、何かテレビとか多くない?」
彼女にそう言われて、光璃はぐるっと周りを見回した。
「そう言われてみれば……」
開会式を待つ選手や関係者とは別に、重そうな機材を抱えた集団が数か所出来ている。
ローカル局だけではなく、見覚えのあるチャンネル番号が付いたテレビカメラも確認出来た。
「なんだろう、誰か偉いひとでも来るのかな」
(そんな話は、全然聞いてないけど)
「それがさ、変なんだよ。さっきから何かこっちばかり見ている気がするんだ」
「わっ、桔梗ってば自意識過剰」
「違うわよっ」
茶化しはじめた光璃を黙らせて、彼女は言葉を続ける。
「何か聞きたい事があるけれど、どうするか迷っている様な……そんな感じ」
「ふーん」
よく分からない光璃は、生返事をした。
数分後、
桔梗の悪い予感は、現実のものとなる。
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