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【小説】「straight」085

 現時点で、桔梗女子の順位は……5位。

 先頭から1分以上遅れた真深は、短距離走並みの猛ダッシュをかけ、全身追撃態勢に入っていた。
 走る度に流れ出た血が飛び散り、彼女の視界を狭くする。

(こんな事くらいで、負けてられへん)

 彼女は、弾尾山の練習中、悠生と交わした言葉を思い出していた。


『真深は、何で三区希望なんだ?』
『何でって、どういう意味やねん』
 口を尖らした真深に、悪戯っぽく笑った悠生が言う。
『いや、人一倍勝気で目立ちたがり屋のお前が、花の一区やアンカーを志望しないのはどうしてかなっていう事なんだけど』

『ウチかて、自分の得手不得手は理解しとるつもりよ』
 真深は、真面目な顔で言った。
『どっちか言うと、ウチは短距離向きなんやな。全力の5キロは結構キツイもん』
『だったら全力疾走で、3キロ走りたい、か』
 納得して頷く悠生。

 彼女は更に、言葉を付け加えた。
『それに、三区って折り返し地点あるやろ? あれが好きやっていうのもあるねん』
『ほう、何で?』
『だって、試合始まって、他の選手と正面向きあう機会って、折り返し位しかないやん』
 真深は、自分の想いを熱く語り出した。
『あの瞬間、いろんな事を考えるねん。先頭のやつ見たら、いまからお前抜かしたるで!って睨み付け、逆に自分が先頭だったら、お前らなんかに負けるかい!って自分を奮い立たせたり』
『なるほど』
『だから、私は三区を選んだんや』

 そこまで聞いた悠生は、くくっと笑った。
『あっ、何がおかしいねんな』
 真深は顔を真っ赤にしてふくれた。

『いや、結局毎回相手を睨み付けているのかと思ったら、何かおかしくってさ』
『ふん』
『でも、それが真深の強みかもな』
『え』
『ハイロウズになんか負けるな、浪速女の根性見せつけたれ』
『い、言われんかったってそうするわっ!』
 何か調子の狂った真深は、再び足を山頂へと向けた。

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