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【小説】「インベンションマン」002
私立たまみらい学園女子寮、通称『銀閣』の朝は早い。
しかし、起床を告げるチャイムで起き出すのは、入学間もない新入生か三年の受験組位だろう。
ましてや、今日は日曜日。
しかし、2年生棟の中で朝早くから賑やかな部屋があった。
「今日はタカサゴ君とお出かけだあ~ん♪」
嬉しそうに飛び跳ねているポニーテールを見て、短髪に軽い寝癖をつけた少女が、椅子に座ったまま溜め息を吐いていた。
普段はくりっとした瞳を、眠たげに瞬かせている彼女の表情には、中学生のようなあどけなさが残っていた。
「そんなに結婚式屋の息子がいいのかなあ」
「だって、結婚式の手間が省けるもーん。何なら秋希(あき)も頼んであげようか?」
「結構です」
秋希と呼ばれた少女は、手にした紙袋を前に差し出した。
「ハイ、これが貸してあげると約束していた服。私は帰って寝るから、もう呼び出さないでよ」
「乙女は見えないトコロにも気を使うのだぁ」
秋希の忠告を耳に留めず、彼女はベランダへと駆けだして行った。
ようやく訪れた静寂にほっとした秋希は、自分の部屋に戻るべくソファから腰を浮かした。
瞬間、空気を切り裂く様な絶叫が鳴り響いた。
飛び上がった秋希は、慌てて発生源であるベランダへと向かう。
最新鋭の防音設備を誇る銀閣の壁だが、窓際での絶叫は流石に吸収出来なかったらしい。
両隣からドンドンと『抗議のノック』が聞こえる。
悲鳴の主は、ベランダの隅にペタンと腰を落としていた。
「どうしたの、柚香?」
「やられた……あたしの」
柚香が指差す方向には、夕べ彼女が洗濯した衣服等がぶら下がっている。
が、その一角だけが不自然に空いていた。
「下着泥棒、か」
秋希は、窓から下を覗き込んだ。
「でも、ここは4階よ」
「お気に入りの勝負下着だったのにぃ!」
さめざめと泣いていた柚香は、やがてスッと立ち上がった。
そのまま机に駆け寄り、何かを書き始める。
彼女の思い詰めた表情に、秋希は慌てた。
「ちょ、ちょっと柚香。まさか下着を盗られたぐらいで遺書なんて……」
一気に書き終えた紙を三つ折りにした柚香は、そのまま秋希に突き出した。
勢いのまま受け取った秋希は、表に書かれている宛先を読んでいく。
「『たまみらい相談室長様』……何、これ?」
「決まってるじゃない、この事件を調査してもらうのよ!」
パジャマの袖口をガジガジと噛みながら、口惜しげな表情を浮かべて言う彼女に、秋希はおずおずと言った。
「それなら、階段脇にあるポストに投函して貰えれば、郵便部が届けて……」
「速達よ、そ・く・た・つ!」
「は、はい」
柚香の剣幕に押され、彼女はコクコクと頷いた。
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