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【小説】「straight」056

 大会まで、一週間を切り、光璃達の表情も日増しに厳しくなって来た。

(昨年のこの大会……
受けた屈辱は、倍にして返してやる!)

 いつもの様に正門に現れた悠生を見て、今日から益々ハードな練習が待ち受けているんだ、と全員が身構えた。

 ところが、彼は彼女達に予想外の言葉を掛けた。
「みんな揃ったか? じゃあ散歩にいくぞ」
「え」
「さ、散歩?」
「なんやあ!?」
 ずっこけている彼女達に、彼は笑って言う。
「勘違いするな、散歩は散歩でも、意味のある散歩だ」


「コースの下見やったら、そう言うてくれたらええのに」
 ぶつぶつ言いながらも、軽快な歩調で歩く真深。
 彼女だけではない、プールや山道でのトレーニングが功を奏したのか、5人全員が余裕のウォーキングを披露している。

「今日から最低一回、このコースを通るんだ」
 最後尾で彼女達を見守る悠生が、大きな声で言った。
「道路のクセ、アップダウン等々、頭の中に全部たたき込むんだ。そして自分の理想の走りをイメージする」

「ひゃっ!」
 先頭を歩いていた桔梗が、いきなり道路脇の塀から乗り出して来た犬に吠えられ、飛び上がった。
「もーやだ、おっきな犬怖い」
「桔梗、今の場所よーく覚えとけよ」
 笑いをかみ殺しながら、悠生が声を掛けた。
「そこが、お前がスパートするポイントだからな」

「え」
 桔梗は振り返って、今通り過ぎた家を見た。
 番犬がなおもこちらを見て喉を唸らせているのを見て、思わず首を引っ込める。
「私、目をつぶって走っちゃいそう」
 彼女の言葉に、全員が爆笑した。

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