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【小説】「インベンションマン」026

 影が、鋭い拳を突きつけて来た。

 素早く左に体重を移動し、躱わし際にカウンター気味の右ストレートを放つ。
 しかし、そこには既に目標物は無かった。
「ちッ」
 舌打ちする間もなく、空気が横に動く。
 両足を前方に投げ出して身体を落とした途端、頭の上に銃口が押し当てられた。
 タアンという甲高い音と共に、目の前が真っ暗になる。

『ハイ、げーむおーばー』
 からかう様な電子音声に、ムッときた春都はヘルメットを乱暴にむしり取った。
「ちくしょォ、あそこで飛び道具とは」
『マダマダ甘イナア』
「るせー」
 悪態をつきざま、PCから接続端子を引き抜く。
「今ので、こないだの奴の何倍だ?」
『すぴーどデ2倍、ぱわーハ1.5倍ッテトコネ』
 能力値をざっとチェックしたナタリーが答える。

(確かに、まだまだだ)
 春都は改めて実感した。
 多少は武術の心得がある彼だったが、実際の戦闘となると、相当の経験が必要である。
 それを補うべく、春都は日頃から様々なイメージトレーニングを行っている。
 今日は、ナタリーが先日の下着泥棒のデータを入力し終わったので、早速仮想対決をしている所だった。

「おっ、頑張ってるねえ」
 陽気な声と共に、蔵敷が準備室に入って来た。
 手元には、ハンバーガーショップの大きな包み紙を抱えている。
 春都は、細い目をして言った。
「……何だ、蔵敷ハカセか」
「そんな嫌味言わないでくれよ。この前参加しなかったからってさぁ」
「お蔭様で、試作品まで投入することになって大変だったわ」
「『エアーハンド』か。まあ実験する手間が省けて良かったじゃない」
「まったく」
 春都はこめかみを軽く押さえた。
 無言のまま、スッと右手を差し出す。
「ん、何?」
「例のヤツ、完成したんだろう?」

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【インベンションマン】ACT.1
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