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【小説】「twenty all 2」004

「それでは本日の練習を終わります。有難うございました」
「「ありがとうございました!」」

 一瞬の間の後、部活終了時の独特なざわめきが室内に拡がって行く。

「ふう」
 佳乃は膝上に置いた「弽(ゆがけ)」を軽く握り、小さな溜め息をついた。
(何回やっても、慣れないものはダメだなぁ)
「よしの部長ォ~」
 そのとき、あっけらかんとした声が弓道場内に響き渡った。

 佳乃はこめかみを押さえながら、その声の主に抗議するような口調で話し掛ける。
「観月ちゃん……その部長って言うの、止めて貰えないかな」
「え、何で?」
 観月は不思議そうに聞き返した。
「だって、ソラ君が引退したら副部長が部長に自動昇格するんだよね」
「私は全然器じゃないし、空良先輩はまだ引退しません!」
 佳乃は全力で叫んで否定した。


 都合ヶ丘高校に新しい弓道場が完成した際、空良はそれまで曖昧にして来た部の役割分担を決めた。

 数字に強い井隼静香を会計担当。
 行動力のある吉田観月を渉外担当。
 そして、
「私が……副部長」
 月島佳乃は言葉を失った。
「不服なのか?佳乃」
 空良の問い掛けに、彼女は慌てて首を振った。
「いえ、決してそんな訳では。ただ、いきなりすぎて心の準備が出来ていないというか、観月ちゃんの方が適任じゃないかなぁって言うか……」
「あの日の言葉は、ウソだったのか?」
 唐突に空良が言った。
「ん、あの日?」
「あらあら」
 観月と静香が過剰反応を示す中、佳乃は空良から問われたあの日あの時の台詞を思い出していた。


『私、頑張ります……弓道場と、空良先輩の為に』


「ううう、分かりました」
「よし」
 素直に頷いた佳乃の頭を、空良はポンと撫でた。
 それだけで、彼女は軽く頬を赤らめてしまう。
「じゃあ、暫く弓道部の事は頼んだよ、副部長」
「はい……え?暫くとは」
 半分現実に戻りきれていない佳乃は、空良の言葉に少し引っ掛かった。
「今回の件で、生徒会に少し借りが出来ちゃってさ」
 空良はごめんねのポーズを取って言った。
「どうしても会長選挙に出なくてはならなくなったんだ。まあサクッと落選してくるから、選挙期間の運営は佳乃にお任せするね」
「え、ええ!?」


 しかし、蓋を開けてみると、会長選挙は空良が他候補に大差を付けて圧勝。
 しかも彼の推薦によって、副書記長に静香が就任するという、おまけ付きの結果となった。

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