【小説】「twenty all 2」002
『喫茶フルール』
落ち着いて店内を眺めたのは今回が初めてだったが、大切な時間を過ごしたくなる素敵な場所だなと感じていた。
「お待たせ」
そんな事を考えていた国府田空良の前に、1人の女子生徒が姿を見せた。
目元が少しキツめだが、元々備えている可愛らしさは隠されていない。
長くて真っ直ぐな黒髪の左側を、少し大きめの藍色リボンで括っている。
「安崎さん」
「こんにちは、国府田君。ホッカイドウ以来だね」
私立橘女子高校の安崎亜紀子は、空良の向かいの席にストンと腰を下ろすと、店員にアイスハーブティを注文した。
「そう言えば、ちゃんと言ってなかったね。個人戦準優勝おめでとうございました」
「安崎さんも。同じく準優勝おめでとう」
「あーっ、悔しい口惜しい」
場を和ませる為わざとおどけてみせた亜紀子に、空良はつられて笑った。
ちょうど運ばれて来たハーブティをストローで一口含み、彼女は改まって訊いた。
「で、どうして今日私を誘ってくれたの?」
「ん」
「キャラじゃないのだけれど、少し顔を赤らめてドキドキしてみた方が良かったかな?」
「俺なんかじゃドキドキにならないでしょ」
期待はしていなかったが、あまりに天然な彼の返答に、亜紀子は少し呆気に取られた。
が、すぐに体制を立て直して尋ねる。
「では早速、空良君のお話を聞きましょう」
「ああ、実はお願いがあるんだ」
本題に入った瞬間、空良は直球勝負に出た。
「なに?」
「見せてほしい……」
「……はい?」
「だから、見せてくれないかな、君の……」
「えっ、えっ!」
頬を赤らめた彼女の手元にあるグラスの中で、溶けた氷がカランとひとつ音を立てた。