【心得帖SS】「カジュアルビズ」にしましょうか?
「ねえサキサキ、これどうかな?」
レディースブランドショップの一角で、四条畷紗季は友人の星田敬子が手にしたロングスカートを眺めていた。
「凄く可愛いね。明るい色合いだからトップスとも合わせやすいし、アリなんじゃない?」
スラっとした体型の敬子に、ミモレ丈のスカートは良く似合っていた。
「おケイの良さが出ていてとても可愛いよ」
「えへへ、そうかなぁ」
モジモジしながら少し顔を赤らめている敬子。(なるほど、社内に彼女の隠れファンが多いというのも頷けるなぁ)
そんな感想を抱いていた紗季に、敬子はあ、と思い出したように尋ねた。
「でもこれって、会社に着ていくにはちょっと派手かもしれない」
「あ…うーん」
彼女達の会社は、服装規定に関してそこまでガチガチではないが、某業界のように何でもアリという訳ではない。
流行りの「カジュアルビズ」にも寛容な姿勢を見せる一方で、取引先など相手先の受け止め方を含めて「華美でない服装」が推奨されている。
「派手と言えば…派手だけど、そこまででは無いような気もする」
「うーん…」
敬子はそのスカートが相当気に入っているのか、ハンガーごとポールから取り出したり掛け戻したりしている。
「おケイ、そんなに気に入っているなら買ったら?」
紗季が助け舟を出した。
「会社でOKかどうかは上司と相談。ダメでも私とお出掛けするときに穿いたらいいじゃない」
彼女の提案に、少し気持ちが軽くなった敬子は笑って応える。
「そうね、ここで買わないと後悔しそうだし。有難うサキサキ」
スキップしながらレジに向かう敬子を、紗季は微笑みながら見送った。
「なるほド」
総務部課長の忍ヶ丘麗子は、敬子が差し出してきたスマートフォンの画面を眺めていた。
その中には、紗季に撮って貰ったのか少し気恥ずかしそうにポーズを取っている敬子の姿が映っていた。
「可愛いわネ。ワタシには似合わなそうだけド」
「あっ、有難うございます…」
直属の上司にファッションチェックをされるという謎のプレイに心がザワザワしてきた敬子は、画面を閉じて本題に入った。
「それで、当社の規定上、さっきのスカートを事務所に穿いてくるのはアリでしょうか?」
「ん、いいんじゃなイ」
麗子は即答した。
「身体のラインが出ている訳でもなく、肩や肌が見える露出や透け感がある訳でもナイ。充分オフィスカジュアルの範囲内だと思うワ」
「はい、有難うございます」
ホッとした敬子はペコリと頭を下げた。
「オフィスカジュアルの定義って、結構難しいですよね」
「ウチは従業員の制服が無いから、毎日のコーディネートが大変ネ」
ある程度の組合せをパターン化しているとは言え、毎朝起きたときの気分によってラインナップをガラリと変えることもある。
「ワタシはカッチリした服が好みだから、敬子ちゃんのコーデはとても新鮮だったワ」
本日もバリキャリ女子風に、濃紺のパンツスーツをビシッと決めている麗子が言った。
「ええっ、課長も可愛い洋服絶対似合うと思いますよ。今度一緒にショップ行きますか?」
「パース」胸の前でバッテンを作る麗子。
「数年前、何かの気の迷いでフリフリの服を着て会社の懇親会に出席したら、一登クンに『麗子さん、何かあったのか?』と真顔でもの凄く心配されたのヨ」
当時のことを思い出した麗子は、ムスッとしながら返事をする。
「一登クンの隣で爆笑していたシンジは思い切り張り倒したけド、あれ以来2度とそんな格好はしないと誓ったワ」
「それは…勿体ないですね」
(京田辺課長と寝屋川課長何やってるんですか!乙女心が全く分かっていないです)
麗子のイライラが伝染った敬子は、商談ブースで何やら打合せしている2人の課長をキッと睨み付けたのだった。