【小説】「インベンションマン」019
「一体、誰が?」
数メートル先に転がった首を眺めながら、春都は疑問を解決出来ずにいた。
しかし、周囲に手掛かりらしきものは全く見当たらない。
やむなく彼は、残された首の調査に当たった。
生前、対峙していた時から思っていた事だが、犯人はまさに『影』と呼ぶに相応しい姿を持っていた。
顔にはいたって特徴が無いが、肌が異常に黒い。
色素の影響だけではないのだろう。
例えるなら、漆黒の闇を絵の具にして塗り込めた様な黒さなのだ。
(こいつは誰で、どこから来たのだろう)
数々の疑問が深まる中、もう少し近くで見ようと足を踏み出したその時、
突然、くわっと瞳を見開いた首が、春都めがけて飛び掛かって来た。
咄嗟に真横にスウェイした彼だったが、側頭部に軽い衝撃を受ける。
髪の毛を一房持っていった首は、今の攻撃で全精力を使い果たしたのか、床に着地した衝撃を受けきれず、大きくバウンドしながら転がった。
掌を前に突き出して構え直した春都の方を、半ば死に掛かった瞳で見据える。
やがて、消え入りそうな声で呟いた。
「……おのれ……ゲンナイ、口惜しや……」
言い終わると、首はまるで支えていた糸が切れたかのように細かく砕け、風の中にサラサラと消えていった。
後味の悪い気分でそれを眺めていた春都は、また新たな疑問を突きつけられたことに気が付いた。
「……ゲンナイ?」