【小説】「インベンションマン」021
梅雨にはまだ早い時期だが、その日は鬱蒼とした天気が続いていた。
夕方になっても降っては止み、また降るといった気まぐれな雨雲に、人々の足は自然と早くなり、視線も伏目がちになる。
JR立川駅の2階にある北口を出ると、目の前に大きな高架歩道が伸びている。
わざわざ地上に降りなくても、付近の建物へアクセス可能となっている。
その通路を100メートル程行くと、伊勢丹の玄関が口を空けている。
玄関口は通路に対して見通しが良く、待ち合わせの場所に使われたりしているのだが、今日は少し様子が違っていた。
そこにいる男性、中学生から老人までがある一点に視線を注いでいる。
彼等が見つめる先、ちょうど通路を挟んだ向かい側にある喫茶店の窓際に、一人の女性が腰掛けていた。
待ち合わせだろうか、退屈そうに外を眺めているその姿は、一瞬芸能人かなにかと見紛う程スレンダーな美女である。
清潔な白のスーツに身を固めているのだが、深いスリットの入ったタイトミニの脚を組み換える度、男性陣からはーっという溜息が漏れていた。
彼女は、そうした男共の視線には全く目もくれず、ひたすら何かを待っていた。
暫く経っただろうか、いきなり空気が変わった。