【小説】「インベンションマン」017
ー誤算だ。
影は思った。
ー何故だ、あいつらは弱いはず。
ーそれが何故、逃げているのだ。
ー返り討ちにあった。
ーあいつは誰だ、誰なんだ。
屋上の手すりにしがみついた影は、頭の位置を整えようと、必死に頸を抑え込んだ。
グギッという嫌な音とともに、ようやく元通りになる。
「……醜いな」
どこからか聞こえて来たその声に、影はビクッと身体を竦めた。
目の前の手摺には、いつのまに現れたのか二本の足が乗っている。
それを見た途端、全身が竦んで、足の上を見上げる事すら出来なかった。
重い……それでいて、痺れるような声が続く。
「なまじ、中途半端な貴様を残していたのが、失敗だったようだな」
一拍置いて、その声は告げた。
「消えろ」
瞬間、空気が動いた。
本能で危険を察知した影が飛びのくより先に、その場の空気がスッと動いた。
コンマ数秒後、切断された首は宙を舞い、行き場を失った身体はバランスを崩して手すりを乗り越えた。
首はコンクリートの床に落ちて大きくバウンドした後、屋上のドアを開けたばかりの春都の目の前に転がっていった。
「!?」
咄嗟に状況を察知した彼は、センサーをオンにしながら素早く周りに目を配って行く。
しかし、既に辺りには誰の気配も感じ取る事は出来なかった。