【小説】「インベンションマン」020
『独占スクープ!消えた首無し死体!連続下着泥棒の犯人は幽霊だったのか?』
『Who Are You? 連続下着強盗犯から本紙記者を救った謎の発明家とは? その華麗な戦いを完全再現!』
「だーから見たんだって、消えちまったんだよぉ!」
ニヤニヤしている夏純を前に、拳を振り上げた冬流が咬みついている。
「あら、じゃあ物的証拠を持って来てちょうだいな」
「証拠なんてねーよ、俺達の記者魂が何よりの証だ」
それを聞いた彼女はおほほほと、甲高い声をあげて笑った。
「見苦しいわよ左、犯行現場にたどり着けなかったからって、デッチ上げの記事まで載せて」
「何だと!」
これには冬流もカチンときた。
「お前らだって、三流芸能誌みたいな題名つけやがって、犯人取り逃がしたくせに居もしないヒーロー登場させて露骨な部数稼ぎするんじゃねえ!」
「言ったわね!」
ギャーギャー掴み合いを始めた二人を見て、秋希はやれやれと溜息をついた。
隣でぼーっとしている春都に声を掛ける。
「これで、解決したのですか?」
「ん、多分ね」
彼の返事は、若干曖昧なものとなった。
(もう、あいつはこの世に居ないのだ。これで学園の安全は守られた……)
そう思えば良いのだが、彼の根っこの部分では全く腹落ちしていない。
納得するには、あまりにも疑問点が多過ぎるのだ。
あいつは、人間なのか?
あいつを倒した奴は、誰なのか?
そして、奴が最後に言った言葉、
『おのれゲンナイ、口惜しや……』
ゲンナイとは、誰なんだ?
何故、死に台詞にまでなる程、恨んでいるのだ……?
現時点では、解決の糸口さえ掴めていない。
但し、このままでは終わらない、更に何かが起こるだろう、という嫌な予感だけは、彼の脳裏にびたりとこびり付いていた。
(色々準備が必要だ、忙しくなるぞ)
「ところで室長、今日は何故帽子を被ってるの?」
そう言った秋希は、春都の頭からひょいっと野球帽を取り上げた。
「わっ、こら!」
「あーっ!」
彼女が大きな声を上げると、喧嘩の真っ最中だった冬流と夏純もこちらを振り返る。
「うっ」「わぁ」
春都の後頭部には、10円サイズのハゲが出来上がっていた。
「あのな、これはだなぁ」
彼は慌てて説明しようとしたが、時すでに遅し。
秋希は、瞳をうるうると潤ませていた。
「ごめんなさい、室長。そんなになるほど、私達が苦労を掛けていたのですね」
「春やん、すまん」
冬流も、バツの悪そうに頭を下げる。
「本気で困らせるつもりはなかったんだ。こいつとは、いつもこんな感じだからさ」
「そうそう、室長だからって1人で思い詰めないで」
遂には夏純まで、神妙な面持ちになってしまった。
「だーっ、だから違うんだってばぁ!」
相談室一杯に、春都の絶叫が響き渡った。