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【小説】「インベンションマン」003

 私立たまみらい学園は、トウキョウ都の西部、タマ丘陵の南西部に位置している。
 中・高・大学まで一貫しており、男子寮・女子寮も備えている。

 その高等部には、創設当時より生徒の学業や受験の相談を行う、学園直属の『相談室』があった。
 当初は教師が持ち回りで運営していたのだが、数年前から実際の運営は生徒自身に任せられている。
 今では、勉強は勿論、学内での様々な事件や問題を引き受けているため、生徒からは『何でも屋』と呼ばれているのだ。

「ふええ、こんなに来ているの!?」
 相談室のポストを開けた途端、廊下に溢れ出した手紙の山を見て、秋希は驚いた。
「これは大変だ」
 ひとまとめにして『未処理』の箱に放り込んだ彼女は、手に持っていた柚香の手紙を一番上に載せる。

 その時、ガラッとドアが開くと、一人の女生徒が入って来た。
 スラっとした細身の長身に腰まで届いているロングヘアが似合う、なかなかの美人だ。
「おー、繁盛してるじゃん」
「かすみちゃん、ちいーっす」
 成田夏純(なりたかすみ)は、アクセサリーよろしく首にかけた真紅のヘッドホンをワンアクションで外しながら言った。
「で、どんな依頼が来てるの?篠原副室長さま」


「ふーん……結構な問題だわ、これ」
 改めて椅子に座り直した夏純は、依頼書にひと通り目を通したあと、ボソッと言った。
「ただ、内容自体はショボイのよねぇ。これだけじゃあインスピレーションが湧かないなぁ」
「そう言うと思って、珈琲を頼んだよ」
 雑多な依頼用件を整理し終わった秋希が、タイミング良く声を掛ける。
「生協の100円自販機?」
「ノン、本格直火焙煎」
「さすがアキ、分かってる」
 夏純はパチンと指を鳴らした。

 ちょうどその時、出前箱を手にした学生服+エプロン姿の男子生徒が、ドアを開けて入って来た。
 どこか西洋的な雰囲気を表情に漂わせた、いかにも女性受けしそうな優男だ。

「へいお待ちっ」
 彼の姿を見た途端、夏純の顔が紅潮した。
「左、てめぇ何やってんだ?」
 左尾冬流(ひだりおとおる)は、ドスを効かせた夏純の声を無視して、テーブルに置いたカップにコーヒーを注ぎ始めた。
「はい秋希ちゃん、スペシャルブレンドね」
「あ、ありがと……」
「質問に答えろぉーっ!」
 夏純が勢い良くテーブルを叩きつけるより一瞬早く、秋希はカップを掴み上げた。
 まだ注いでいなかったもう一つのカップが、派手な音を立てながらひっくり返る。

「見ての通り、駅前喫茶『おべんちゃら』のバイト君さ」
 涼しい顔でカップを起こした冬流は、それに中身を入れて彼女に差し出す。
「安心しな、毒は入れてねぇよ」
「毒のほうがマシ」
 憮然とした表情で、夏純はカップを受け取った。一口飲んで、うえぇと唸る。
「まじぃ」
「かすんだアタマには、丁度いいだろ?」
「ひだりまきよかマシね」
「何だとこの!」
「あん、やるか?」

 戦闘モードに入った二人から、秋希はそそくさと距離を置いた。
 こうなったら、誰にも止められない。

 秋希が初めて2人に出会った時から、夏純と冬流は何かにつけて言い争っていた。
 何でも、幼稚園の時からの腐れ縁らしい。
 本人達は気が付いていないが、小学校低学年レベルのケンカだ。
 犬猿の仲である『男子新聞部』『女子新聞部』の部長をお互いやっている事も、争いに拍車を掛けていた。

(でも、仲が良い時もあるのだよねぇ)
 お互いの口を両手で引っ掴んでいる様子を見ながら、秋希は溜息をついた。

「あーあ、室長(リーダー)早く来ないかなぁ」

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