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【小説】「straight」106
その事には、当然マスコミ各社も気が付いていた。
彼らは、スタンドの興奮が一通り収拾したのを見て、一斉に行動を起こした。
「澤内コーチ、おめでとうございます」
「佐山さーん、こっち向いてください!」
「創部二年目の学校が初優勝、コーチの手腕もあったかと思いますが、それだけじゃないでしょう?」
「試合前、選手達が飲料を飲んでいたのを目撃した人がいるんですが、ドーピングじゃないでしょうね」
「全国の人が見ています、この場でハッキリ答えて下さい」
「……おまえら、またしょーもない事を」
殴り掛かりそうな勢いで周りを睨みつけた真深を、悠生はやんわり押し止めた。
光璃の顔を見た彼は、彼女が黙って頷くのを確認して、ゆっくりとカメラの前に立つ。
一拍置いて口を開こうとした、まさにその時だった。
「その件については、私がお答えしよう」
後ろから出て来た手に腕を掴まれ、悠生は押し戻された。
代わりに、渋めのダークスーツを来た四十代後半位の男が記者団の前に立つ。
「何だあ、おっさん」
「あなたは誰なんですか?」
「澤内コーチとの関係は?」
記者達が、この新しく現れた男に対して矢継ぎ早に質問を浴びせ掛ける。
しかし、男はいたって冷静だった。
「本日付けで、ビッグウエスト社取締役社長に就任した、大西稔流と申します」
稔流は、慇懃な礼を行ったあと口を開いた。
「今日は、マスコミの皆様に重大な発表があった為、ここにお集まり頂きました」