安全保障での日本とNATO・韓国・豪国等との連携について
某所で受けた、日本とNATO・韓国・豪国等との安全保障面での連携についてのセミナーの箇条書きメモ。
① 日本の「軍事的復活」については海外でも盛んに議論されている。
しかし、日本の安全保障政策の”変化”についてはよく発信されているが、”変化していない部分”については発信されていない傾向がある。
② NATOにとって、中国はロシアのウクライナ侵攻について「decisive enabler」という位置づけで警戒されるようになった。
北朝鮮についてもロシアに対する支援国として脅威認識されるようになった。
③ 近年、ドイツやスペイン、フランス・イタリアといった欧州海空軍の部隊が来日して共同訓練を実施するようになっている。このような欧州との共同訓練の発展を日本は(具体的には)どのように国益とすることができるか?
④ FOIP (Free and Open Indo-Pacific)概念の提唱は、軽武装経済重視の吉田ドクトリンから、積極的平和主義への転換の象徴であった。
ただ、この転換は、90年代からジワジワと進んできているわけで、安倍政権によって突如変わったわけではない。
過去における日米同盟の最大の危機は、80年代の日米貿易紛争。
⑤ 今月の2+2の成果は、日米の統合を前進させる(日本の統合司令部に対応させる、在日米軍の統合司令部を編成する)合意ができた。さらに、中国を名指しで仮想敵と述べた。
⑥ 日韓がもっとも緊密だったのは1998-2002年の、金大中・小渕恵三間で結ばれた日韓共同宣言・ワールドカップ共催。
00~10年代から日韓関係は漂流し始めた。2018-19年が最悪(座礁状態)。
ここ1~2年で日韓関係が回復してきた。この厳しい国際関係下で、日韓が協力しなければならないという合意ができた(韓国側の政策の転換=FOIPへの加入)。米国バイデン政権による後押しがあったのも事実(キャンプデービッド合意)。
これをさらに進めていくには、慎重に育てていく必要がある。ただし、日韓では歴史問題がデカい懸念点であることに注意。
⑦ 「地政学」というワードは、今の日本ではバズワードと化している。本来の意味は国際関係の解析への地理的なアプローチ。
そう考えると、本当に「地政学」が復権しているのか?むき出しの弱肉強食の世界観が復活しているのか?正直疑問。
たとえば、地政学的には韓国は「本質的には半島国家で、中国になびくのが本質」というのが説明。しかしそれでは現在の尹(ユン)政権のFOIPピボットは説明できない。
⑧ 現在の世界は、異なる体制・秩序観を持つ国家同士での結束が強まっているのだろう(権威主義体制同士 vs 民主主義体制同士)。
日豪の関係が数十年間増進しているのは、同じ秩序観を持っているから。豪州は労働党政権が成立して、中国になびいているという言説は完全に間違っている。今後10年間で防衛費を2倍にし、日本を追い抜く見込み。対中姿勢に変化はない。
⑨-Q 日NATO、日韓、日豪といった関係の増進は、日米同盟を代替できるもの(保険)になるのか?あるいは、日米同盟の中心性がますます強くなるのか? それらの関係は最終的に何を目指しているのか?
⑨-A1 昔は米国での立ち位置はNATO>日米同盟だった。今は日米同盟の立場が強くなっている。それは対中の文脈もあるが、”同じ秩序”を目指す同盟であるから。
A2 「ハブ・アンド・スポークス」から「ハブス・アンド・スポークス」を目指せるのではないか。また、NATO・EUのような欧州中心の秩序とリンクすることで、日米同盟の”補完”(not 代替)になりうるのではないか。Bilateralで行うことと、Multi-lateralでやるべきことを明確化する必要がある。
A3 日韓では、同じ秩序観を目指すのが重要ではないか。ただし、韓国の進歩(リベラル)派が政権を取ったときに、本当に同じ秩序観を維持できるかはチェックする必要がある。
A4 日米同盟の代替にはなり得ない。ただ、アメリカとしても、自国一国では世界安保を担いきれないという認識に至っている(だから豪州に原潜を売った)ので、同盟国や、同盟国同士による負担の増加を願っている。
A5 アメリカの同盟国(日韓豪欧)は、いかにアメリカをつなぎとめるかが重要であることは間違いない。同時に、いかに(自国のために)同盟国を使うか?という視点は、常に(どの国にとっても)重要。
欧州諸国の大半はNATO加盟国であり、米国の同盟国の仲間であるという認識は重要。理想形は、そういった欧州諸国がFOIP地域にやってきたときに、すぐに戦力化できる「Plug-in」を実現維持すること。
昨今の課題は、グローバルサウス諸国における、米国の正統性の低下(特にイスラエル関係)。その低下は日本にとっても懸念材料。日本は、「アメリカとウチは別ですよ」と発信しつつ、「日米は緊密な同盟国なので抑止力は十分ですよ」と発信する必要がある。
⑩ もしトランプが当選したら、彼は世界の秩序に貢献することを考えていない、あるいは彼独自の秩序観を持っている可能性が高い。その時に日本は、中国が第一列島戦を突破した際に損なわれるアメリカの利益についてプレゼンする必要がある。
⑪ 基本的には国連加盟国は専守防衛。つまりゴールは一緒。だけど、ロシアによるウクライナ侵攻や、イスラエルによるガザ侵攻のように、手段はバラバラ、と考えるべき。
⑫ 「もしトラ」については、アメリカが主要な秩序の守り手としての地位を維持するように日本が支えるとともに、日本の立場を上げていくしかない。
⑬ 韓国的には、韓国軍はアメリカ主催の合同演習(noti 日本国内)では全て参加しているし、UNC(国連軍司令部)は今でも韓国国内で機能している(英豪は今でも韓国によくくる)。さらにUNCの後方拠点は日本にあって、いまでもそれを使って豪州は来日している。ユン政権は欧州との交流深化に舵を切っている。
⑭ 豪州にとって、欧州(特に英国)との関係は重要。AUKUS創出時、当初豪州は英国とだけ組もうとしていたのに、アメリカが介入してきた。豪州はBrexitを歓迎する世論も強く、英国の影響力が強い。ミドルパワ―同士の協力は重要だが、日米同盟の代替にはならない。
⑮ 欧州や韓国を見る際に重要なのは武器輸出。特に韓国は活発。もう一点は核。韓国は、日本と状況が違うので、2021年にイギリスの空母打撃軍が来日した際、SSNは韓国に寄港した(日本に寄港できなかった)。そういった核戦力の扱いという点で、日本は難しく、韓国の方が受け入れやすい。
⑯ 韓国・欧州関係でいえば、UNCは医療支援のハブとなってきた。
⑰ 日本における最低限のリアリズムが「日米同盟」で、これがプランA。ただしアメリカのリベラリズムに魅力があるからこそ広がりがある。欧州との連携は、プランAへの+α。
中国はアメリカと戦争はしたくないが、台湾は統一したい。その時に経済制裁については気にしているが、欧州がその時にどちら寄りになるか?(経済制裁に加わるか?)は非常に重要。
国内政策(国家主権)については、世界中の国が、同盟国との友好と、自国の主権の綱引きについて、バランスを取ろうとしている。その綱引きはずっと続けていくしかない。それを破るとトランプのようになってしまう。
⑱ 「ルールに基づく国際秩序」という言葉が、国によって受ける印象が違う。かつてはアメリカが「ルール」だった。しかし、そもそも米ロ中といった強国にとっては、ルールは足かせでしかない。その点、欧州や日本はルールを重んじる点で一致できる。
以 上
(ヘッダー画像は全く関係ない引用元から:https://www.youtube.com/watch?v=zTvSd2j3Dbg)
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