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トランプ・ヴァンスに会場熱狂!でも、それが得票につながるのか?【全米共和党大会訪問記(1)】

 もう2週間も経ってしまったが、7月15-18日にアメリカのミルウォーキーで開かれた全米共和党大会(RNC)に行ってきた。

会場となったファイサーヴ・フォーラム(Fisserv Forum)
各州から共和党の代議員たちが集う


 日本でも報道されているが、同大会でトランプ・ヴァンスのコンビが大統領・副大統領候補として確定。二人の演説に会場が熱狂し、聴衆が大歓声を挙げる場面を目の当たりにしてきた。

 ただ、同大会を見てきたことで、筆者はかえって、トランプの再選への道のりはかなり厳しく、米大統領選はまだまだ全然勝敗が読めないと思った。そして同大会以後の情勢はそれを裏付けており、むしろトランプに対して逆風が吹いている。

 筆者がここ数年、米国の政治状況をそこそこ近くから眺める機会を得て感じることは、大統領選に代表されるアメリカの選挙が「自分たちのリーダーを選ぶもの」ではなく、「自分たちのリーダーとして誰に”NO”を突きつけるか」になってしまっている現実である。

 そして、この潮流は日本に来つつあり、アメリカの現状は日本の数年~10年後であるとも思う。

 これから数回に分けて、その詳細を書いていきたい。

第1回 聴衆も登壇者も「限られた」層?

 筆者はこれまで数回、アメリカ保守派の大規模集会であるCPAC(Conservative Political Action Conference。保守政治活動会議)に参加する機会を得てきた。


 CPACとは?については上に挙げたサイトを読んで頂きたい(日本でもCPAC JAPANが開催されている)が、主流のメディアでは「極右(far-right)」と叩かれることも多いイベントである。

【Trump’s International Fan Club Descends on Maryland
- The annual CPAC event has become an obligatory stop for the global far right.】
https://foreignpolicy.com/2024/02/28/far-right-trump-cpac-orban-milei-truss/

 しかし、その「極右」の集会と呼ばれるCPACにこれまで何度も参加してきた筆者が驚いたのは、CPACの方が、今回の全米共和党大会よりも”多様”だった、という事実である。
 逆に言えば、今回の全米共和党大会は、均一な「限られた」層しか集まっていないのではないか、という印象を受けた。
 その均一さは、”人種”という意味でも、そして保守派的には人種よりももっと重要な思想”という点においても、感じられた。

 まず、日本人にとって分かりやすい”人種”という観点を先に挙げると、全米共和党大会の聴衆は、見渡す限り(目算で95%)白人であった。恐らくユダヤ人と、たまにヒスパニックは見かけたが、アジア系と黒人は本当に少なかった
 なぜ筆者がそこに驚いたかというと、「極右の集会」扱いされるCPACで見かける参加者のうち、白人は7~8割弱ほどで、残りの2~3割はヒスパニックや黒人、アジア系だったからだ。つまり、CPACの方が人種的に多様なのだ(もちろん白人が多数だが)。

 さらに、全米共和党大会では登壇者もほぼ白人で、たまにヒスパニック。あまりにも有色人種が登壇しないので、カントリーミュージックのライブ演奏でバックコーラスに黒人が出たときに強い違和感を覚えた(しかもその時のバックコーラスは全員黒人で、これはこれで異様だった)。これも「極右の集会」のはずのCPACの方が”多様”であった。

代議員・聴衆、ほぼ全員が白人


 そして、保守派的には”人種”よりも重要な”思想”という点でも、今回の全米共和党大会はCPACより”多様さ”に欠けていた。端的に言えば、登壇者が”MAGA”か”MAGAウケする人”ばかりで、ヘイリーやラマスワミ等の大統領候補を競った相手や、トランプの家族(後述)を除けば、あとはイスラエル(シオニズム)支持のユダヤ人ぐらいしかいなかった。

※ 「MAGA」とは:Make America Great Againの略で、熱心なトランプ支持者や、トランプ主義(アメリカ第一主義)等を指す。不法移民の排斥や、米国内製造業の保護等を支持し、人種的には白人が多数。
 「MAGAウケする人」は、MAGA寄りの政治家や言論人はもちろん、退役軍人や戦死者遺族、さらにはプロレスラーのマイク・ホーガン等。

 つまり、CPACで見るような、伝統的な米国保守派の登壇者はほとんど見られなかった。減税・規制緩和・小さな政府を志向するリバタリアン、ゴリゴリのキリスト教やユダヤ教に基づく説法をする宗教右派など、聴衆の中にはいたが、ステージには上がらなかった

 このMAGA、別名「トランピアン(Trumpian)」「ポピュリスト(populist)」と、伝統的な保守派(conservative)の温度感の差は、とある保守派の大物活動家と話したときにも感じた。彼に副大統領候補のヴァンスについて聞くと、「彼はとてもスマートだと思う。ただ、彼はポピュリストで、私は保守派だから」とだけ述べていた。

 このようなMAGAと保守派の温度感の違いの中で、同大会に出席している人たちが団結できる一番のイシューが反リベラル・反バイデンであった。そのため、ほぼ全ての登壇者たちの発言がリベラルとバイデン批判と、その結果としてのトランプ礼賛に収斂していた。ここら辺はトランプ・保守派批判に収斂する民主党側の鏡写しにも感じられたが、つくづく、アメリカの選挙が「誰に”NO”を突きつけるか」(not 「誰がリーダーにふさわしいか」)になってしまっていることを感じさせた。


 このように、MAGA一色ともいえる共和党大会を見て、本当にこれで勝てるのか?アメリカは広いぞ、と思った。すなわち、確かに会場内はトランプ・ヴァンスに熱狂していたが、この会場内の熱狂が、会場外の得票と本当に一致できるのか、危ぶんだのが正直なところであった。

 実際、同大会から半月が経ち、バイデンが降り、ハリス副大統領が民主党側の大統領候補となり、潮目が明らかに民主党側有利になりつつある。ハリスは圧倒的な資金集めに成功し、共和党寄りのFOXの調査ですらスウィング・ステートでハリス有利となっている。

 筆者の私見では、これはハリス陣営の活動の効果でもあるだろうが、「高齢で能力不足」なバイデンという”NOを突きつける"相手を失った共和党の支持率の低下が大きな要因である。

 このように、全米共和党大会では登壇者も聴衆もMAGA一色であり、特に副大統領候補にヴァンスが選ばれたことで、共和党は正副大統領候補がともにMAGA、という状況になった。筆者は当時からヴァンス副大統領候補という選択肢は悪手であったのではないかと思っていたが、バイデンが退いた今は確信に変わりつつある。
 次回以降、このことについて記したい。

(第2回に続く。敬称略)

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