腰の定まらない「資産所得倍増プラン」
記事よれば、岸田首相は年内にも「資産所得倍増プラン」を策定する方針だという。
そもそも、首相の提唱する「新しい資本主義」の内容がいまだ見えず、その中で資産所得倍増などと言われてもポカーンとするしかない。
当初は再分配色の強い「新しい資本主義」だったはずで、資産所得ではなく「所得倍増」がメインだったはずなのに、いつの間にかフェードアウトし「資産所得倍増」に切り替わった経緯から、元々大して期待もしていない。
その資産所得倍増だが、記事によれば「貯蓄に偏る個人金融資産を投資に振り向ける」ことが目的らしい。
と言うことは、別に資産の総額が増えるわけではないのだ。
例えば今、1000万円の現金と100万円の株を持っている人がいたとして、1000万円の現金がそのままで株が200万円になるのではなく、現金は900万円に減らしてその分、株が200万円持とうと言っているのである。「振り向ける」という言葉はそう解釈するしかない。
単純に、ポートフォリオの変更である。
株式市場にお金を回すという意味はあるのかもしれないが、肝心の株価が上がる政策がもう一つ見えない。
新しい資本主義実現会議の基礎資料を見ると、人への投資を盛んに謳っているから、それが結果的に株価を上げると言えなくはないが、直接的には企業の業績というより賃金の引上げを目的としているようにしか見えず、ここから見えるのはやはり再分配政策である。
株価が上がる見込みがないのに株を買う人はいない。
再分配が悪いわけではないが、今の日本経済に必要なのは供給側よりも需要側の改革である。個人消費を始めとする需要が力強く上昇すれば、企業は放っておいても人へも設備へも投資する。
逆に言えば、需要が見込めないのに1円だって投資などするはずがない。投資した分だけ儲かるという希望を持たせることが最大の投資なのだ。
何より問題なのは、岸田首相が何をしたいのかさっぱり分からない、という点だ。
当初は「市場にすべてを任せる新自由主義」を方向転換するようなことを言っておきながら、資産所得倍増を本気で目指すなら市場重視にならざるを得ない。しかし「新しい資本主義」全体のトーンは相変わらず再分配である。
資産所得倍増プランは、岸田首相の腰の定まらなさを象徴する事案になるのではないだろうか。