栗山 丈

物書き。音楽をテーマとした小説などを書いています。小説『四条河原町ヘテロフォニー“純情…

栗山 丈

物書き。音楽をテーマとした小説などを書いています。小説『四条河原町ヘテロフォニー“純情編”』が絶賛発売中です。古本屋巡りと散歩が何よりも好物。 *三田文學会 所属 *現代音楽の作曲(横田 直行) *日本作曲家協議会 所属 twitter.com/@yokonao57

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  • note クラシック音楽の普遍化を達成する

    • 2,183本

    クラシック音楽の歴史や作曲家、作品について、哲学的な視点から分析し、その普遍性や深さを探求する和田大貴のnoteです。クラシック音楽について語り合えることを楽しみにしています。参加希望の方はマガジンの固定記事でコメントしてください。

最近の記事

【短編】境遇と悲愴

[上 境遇] 人間の気にもかけない特殊な極域。想像も及ばない感知不能の世界がそこに存在していた。 動物や植物のはなしではない。 はたまたあの世のことでもない。 空間と時間の絡み合うなかで、麗しい音の連なりを創造することを生業としている。 いい仕事をすることは、このものたちの本質的な使命である。 自力でそれを成すことはできず、人間の力を借りれば、その機能性は遺憾なく発揮され素晴らしい感動を生み出す。 彼等は職人の手によって命をやどし、この世に生を受けている。 そして

    • 京都・古典芸能・現代音楽を結ぶ『四条河原町ヘテロフォニー第1巻“純情編”』

      わたしは情緒豊かな古都、特に京都をこよなく愛してきました。 あの風情ある街並みに古人の粋を感じ、心を潤う古くからの風土に胸を打たれます。 いにしえの時代から、現代もなお受け継がれる伝統文化の存続はこれからも願わずにはいられません。 現代のクラシック音楽に長く関わってきた人間として、我が国の伝統芸能の価値観をずっと意識してきました。 そして、今の我が国の時代の作曲家から生まれる音楽と、何か共通の侘びのごとく慎ましくも豊かなテクスチャを伝統音楽にも感じるようになったのです。

      • 【評論】ショスタコーヴィッチの音楽の特色

        ロシアの政治的な背景と背中合わせの状況に置かれていたドミートリイ・ショスタコーヴィッチ(1906-75)は、迫害を受けつつもその圧力に屈することはなく、強い精神で生き抜いた作曲家である。 彼の生まれた頃は同世代の作曲家は無調性の音楽へと向かい、新しい多様な創造を求め始めた時代である。 ショスタコーヴィッチは概して調性音楽を書いたが、後期になると、一部の作品で若干の無調の世界を漂わせる作風もみせている。 彼の後期特有の特色である。 時代が音楽の多様性へと進んでいたなかで、音

        • 【評論】ブラームスがオペラを書かなかった理由

           ロマン派の時代に器楽や管弦楽を中心に作品を残したヨハネス・ブラームス(1833-1897)。独自の作風を確立させ、作曲の仕事と作品出版だけで生計を立てていた作曲家である。 室内楽曲、歌曲、合唱曲、管弦楽曲、交響曲、協奏曲などの作品は、前期のロマン派の一歩先を進んだとも言っていい重厚な和声と豊かで深みのある音質の楽曲が多い。 そのブラームスが生涯オペラを書かなかったことはよく知られている。 オペラを好んだのか好まなかったのかはおそらく後者なのであろう。 そして書かない

        【短編】境遇と悲愴

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        記事

          【評論】シューマン『人と音楽』

           生涯を通じて苦難に満ちた人生を歩んだロベルト・シューマン(1810-56)は、自己に忠実に向き合うことを忘れようとはしなかった。 自身の胸のうちに存在していた「信念」に従って行動する代償は時には大きく、相反する人間との衝突も少なくなかったようである。 例えば、社会の動向の不条理には敏感に反応し、背を向けるような正義感。 これによる何らかの反動は少なからず存在し、それらに追い詰められて心に生ずる苦悩は彼自身を蝕んだのである。 これによって、彼の心の底には、はかり知るこ

          【評論】シューマン『人と音楽』

          世の中は多種多様な人であふれている

          人間って色々な人がいますよね。 作家は言わば人間を描写することを中心にして書くこと生業としますから、人に出会い、かかわりがあれば、「この人はどんな人なのか」という関心が必ず涌きおこります。 そして、それを言葉にいかにリアルに描くかを考えます。 わたしも今までの行政の窓口経験や図書館の業務、作曲界との交流などを多様な仕事を通じて、いろいろな人々と遭遇してきました。 そんな経験をもとに人間を職業や生活上の呼称に大まかに分類し、小さな百科事典に収める試みをしました。 そし

          世の中は多種多様な人であふれている

          人生に行き詰まりそうな時こそ...

          仕事に自信を失い、社会についていくことにくじけそうになられているそんな方、いらっしゃいませんか? 拙作、短編『プチ・がんじがらめ』の主人公は世捨人になりかけた絶望の底に浸る若者です。 この作品の最終部で、この若者の親友から彼へ生きていくヒントを助言しています。 この最終部、次に挙げてみます。 ぜひ勇気を出して次の一歩を踏み出してみてください。 同様に絶望に遭遇している読者の皆さんにお役に立つことができれば幸いに思います。 また、全編は100円の有料になりますが、よ

          人生に行き詰まりそうな時こそ...

          【評論】ストラヴィンスキーの哲学的音楽観

           次に掲げる文章はロシアの作曲家イーゴル・ストラヴィンスキー(1882-1971)の自伝から引用した一節である。 少し長めの文章だがご覧いただきたい。 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜 「戦争のニュースを読んで、愛国心がわき上った私の深い感動と、祖国からあまりにも遠く離れていることに対する悲しみの念とは、ロシア民謡詩に夢中になるよろこびによって幾分やわらげられた。  この詩に私が魅惑されたのは、時に粗野な物語でもなければ、常にあまりにも面白く思いがけない情景や比喩

          【評論】ストラヴィンスキーの哲学的音楽観

          初期の投稿の10の短編については、近く『短編集』として電子出版をする運びとなりました。このため、これらを2024年4月29日より¥100の有料記事とさせていただきますので、何卒ご理解を賜りますようお願い申し上げます。今後も皆様に楽しんでいただける記事を随時投稿してまいります🙇‍♂️

          初期の投稿の10の短編については、近く『短編集』として電子出版をする運びとなりました。このため、これらを2024年4月29日より¥100の有料記事とさせていただきますので、何卒ご理解を賜りますようお願い申し上げます。今後も皆様に楽しんでいただける記事を随時投稿してまいります🙇‍♂️

          【評論】日本伝統音の深み

          「ー(略)ー 邦楽の音は私にとって新鮮な素材としての対象にすぎなかったが、それは、やがて私に多くの深刻な問いを投げかけてきた。私はあらためて意識的に邦楽の音をとらえようとつとめた。そして、その意識はどちらかといえば否定的に働くものであった」 作曲家武満徹氏が邦楽に触れたときのひとつの認識として、自己の感覚で得た発言である。 西洋音楽を扱う作曲家がかかわれば、異なった性質のゆえにつかみずらく、扱いにくい領域であるのは間違いない。 日本の音楽は古来の伝統、ないし楽器の性質から

          【評論】日本伝統音の深み

          音楽を物語る

          自然を音楽にしたり、他の芸術カテゴリーの影響のもとで、音楽が生まれることは作曲家の仕事として通常に見られていることである。 最近のわたしの仕事として意識していることは、音楽を言葉で表現すること。 評論でも詩でもなく、小説で。 「音楽を物語に?」 そう、小説は物語であるから、登場人物はト音記号や音符たちであり、さらには速度や強弱、発想、演奏法などの用語も対象になる。 これらも音楽が演奏される上では、常に生きた会話をしているのである。 時にはこれら各々が衝突し、乱れ、

          音楽を物語る

          ハイネの形容するパガニーニを通じて想う

          詩人ハインリヒ・ハイネ(1797-1856)は、1830年に聴いた稀代のヴァイオリスト、ニコロ・パガニーニ(1782-1840)の演奏とその時の聴衆について、記録を残しています。 その文章が特異で文学的表現に満ち、豊かな感性に満ちていたので、次に引用してみたいと思います。 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜 「舞台に現れたのは、臨終間際の男なのか。 瀕死の剣闘士のように痙攣している様子を見せて、聴衆を楽しませようとでも言うのか。 あるいは死からよみがえった、ヴァ

          ハイネの形容するパガニーニを通じて想う

          拙作ピアノソナタ第4番“ティル・オイレンシュピーゲル”(2024)について

          長年、作曲家をしてきていますので、小説の執筆のほかにもクラシック音楽をたくさん書いてきました。 昨年秋に一度書き終えた、 ピアノソナタ第4番“ティル・オイレンシュピーゲル” という作品ですが、ドイツに伝わる『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』といういたずら話をもとに書いたものです。 その後、気に入らないところも少しありましたので、手を入れ直して今回改訂をし終えました。 これにより、一段と洗練されたティルの奥深い性格などが、ピアノで語る交響詩として描くこと

          拙作ピアノソナタ第4番“ティル・オイレンシュピーゲル”(2024)について

          どうやら、30回投稿バッチをいただいたようです。どうもありがとうございます🍀まだまだ短編、評論、詩、エッセイなどを掲載していく予定です。

          どうやら、30回投稿バッチをいただいたようです。どうもありがとうございます🍀まだまだ短編、評論、詩、エッセイなどを掲載していく予定です。

          【短編】メタモルフォーゼ  〜 晩学作曲家のモノローグ 〜 第5話(最終話)

          そして最近であるが、芸術家にとって一番嬉しいお知らせをいただいたことをお伝えしておきたい。 スポンサー主催の現代音楽祭に継続して作品発表をさせていただいたことが契機となったのか、顕彰事業に私の《琵琶、篠笛、尺八、声のための室内楽詩「リヴァイアサン」が芸術祭賞で表彰されることになった。 音楽活動をしているものにとって、これほど嬉しいことはないし、これからの作曲活動にいい意味での影響を及ぼすことは間違いなく、躍動のバネになり得るものである。 またこのタイミングで出版社から「

          【短編】メタモルフォーゼ  〜 晩学作曲家のモノローグ 〜 第5話(最終話)

          【短編】メタモルフォーゼ  〜 晩学作曲家のモノローグ 〜 第4話

          やはり、このレベルの作曲家というものはいつも必死にチラシをまいて、SNSでしつこいくらいに演奏会の案内を投稿し、友人に拡散希望と記しておいてシェアしてもらって広報を怠らないことが肝要となってくる。 チケットは少しでも多く売らなければならない。作曲家たる者、曲を書き続けなければならないし、書き続けて作曲の技術全般がようやく見えてくるものだ。 曲を書いて演奏会を次々と打たなければ、自分をアピールできずにそのまま埋没してしまう。 作曲だけで生計を成り立たせるのは困難に近く、や

          【短編】メタモルフォーゼ  〜 晩学作曲家のモノローグ 〜 第4話