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絶望に息(いき)る。潮が何かを運んでくる。しらんけど。
アマゾンプライムに入っている。
プライム・ビデオで、映画「キャスト・アウェイ」が無料視聴できるようになっていたので、数年ぶりに観ることにした。ただ一人、南太平洋の無人島に投げ出されて(cast away)、孤独に4年暮らしたのち、奇跡的に生還する物語だ。
あらすじ以外の詳細な描写は当然かなり忘れていて、それらを味わうにつれ、エンディングあたりではとても感動した。
特に、終盤の彼の語り。
主演のトム・ハンクスは、やっぱり演技がうまいなあ。
心の支えだった最愛の恋人を失った直後、部屋のソファに座り、水割り?のグラスを傾けながら、仲間の一人にしみじみと思いを語るシーンがある。僕は、生きる勇気をもらえたので、読んでくださる方とシェアしたくなった。
――以下、映画からの引用です。英語は僕の聴き取り、日本語は字幕より。
※ネタバレあります。ご注意ください。
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We both had done the math.
And Kelly added it all up.
She knew she had to let me go.
彼女も僕も考えて
彼女はその末に
僕をあきらめた
I added it up, knew that I'd...I'd lost her.
'Cause I was never gonna get off that island.
I was gonna die there, totally alone.
僕も島で思ったよ
彼女を失ったと
島からは出られない
孤独のまま
死ぬのだと
I was gonna get sick or I was gonna get injured.
The only choice I had...
the only thing I could control was...
when, and how, and where that was gonna happen.
いずれ病気か怪我で死ぬ
唯一残された道
自分の意志で選べる道は
いつどうやってどこで死を迎えるか
So I made a rope.
And I went up to the summit to hang myself.
I had to test it, you know, of course you know me.
And the weight of the log snapped the limb of the tree,
so I got..., yeah.
ロープを編み
山頂で首を吊ろうと決心した
それで、まずテストをした
僕はそういう性格だ
だが重さで木の枝がポキンと折れた
I couldn't even kill myself the way I wanted to.
I had power over nothing.
望み通りの自殺もできない
僕はまったく無力だった
That's when this feeling came over me like a warm blanket.
I knew, somehow, that I had to stay alive.
Somehow.
代わりに温かい毛布が僕を包んだ
生きよう
何が何でも
生き延びるのだ
何が何でも
I had to keep breathing even though there was no reason to hope.
And all my logic said that I would never see this place again.
呼吸をし続けるのだ
なんの望みがなくても
故郷に二度と戻れなくても
So that's what I did to stay alive.
I kept breathing.
And one day that logic was proven all wrong
because the tide came in, gave me a sail.
僕はそうした
生き延びて
息をし続けた
ある日 その考えが
ひっくり返った
潮が帆を運んできた
And now, here I am.
I'm back, in Memphis, talking to you.
I have ice in my glass.
そして今ここに
僕は戻った
メンフィスで君と話をしている
手には氷の入ったグラス
And I've lost her all over again.
I'm so sad that I don't have Kelly.
But I'm so grateful that she was with me on that island.
彼女を再び失った
彼女を失ったことは悲しい
だが島ではずっとそばにいてくれた
And I know what I have to do now.
I gotta keep breathing.
Because tomorrow, the sun will rise.
Who knows what the tide could bring?
これからどうするか?
息をし続ける
明日も太陽が昇り
潮が何かを運んでくる
(引用終わり)
Copyright Paramount Pictures 2000
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絶望の果てに彼は首を吊ろうとするも、
死ぬことすらままならない。
よし、それなら、何が何でも生きてやろう。
この語りで主人公は、"Somehow"という言葉を2度繰り返した。
それを翻訳者は「何とかして」ではなく、「何が何でも」と訳していた。
生への強い衝動がよく表現されている秀訳だと感心した。
そう、希望がないのに、「何が何でも」生きる。生き延びる。
たとえそれが、じっと耐えて息をするだけであっても。
僕はいま、別に余命宣告されていない。
しかし、いい歳になって、死が思いのほか近くにあるのかもしれないと感じることが増えた。
去年の1月、愛犬マルチーズの「こたろう」が僧房弁膜症による心臓肥大で気管が圧迫され、呼吸困難から最後には心臓発作を起こして16年の犬の人生を閉じた。手術に耐えられないため、医者もあきらめて下さいと言った。できる限りのことをやったが、最後の数週間、呼吸が苦しそうで見ていられなかった。
希望がない中で、息をして生きることに意味があるのか。
こたろうは意思表示ができないため、是非もない。飼い主である僕の胸に「安楽死」という言葉が何度も去来した。犬を安楽死させることはできるのだ。僕はその選択肢を取らなかったが。
僕は、人間だから意思表示はできる。だけど皮肉にも人間であるがゆえに、首吊りに失敗した彼と同様、そう簡単に自発的には死を選択できない。その時、僕は息絶え絶えの中で何を考えるだろう……。
トム・ハンクス扮するチャックは、ウイスキーグラスを透かし見上げて言う。
――それでも生きていたら、ふと変化が訪れる。
彼の場合は、脱出筏の帆に使えそうな人工物の漂着。
その結果、彼は文明社会に生還を果たした。
草露をすすって生きること4年、ついに氷のある生活を取り戻した。
だがそれと引き換えに彼は、生きる支えだった恋人を失う。
再びどん底に突き落とされる。
彼は、"all over again" と言っている。
彼にとっての「すべて」を「再び、すっかり」失った。
しかし、しかし!
彼は強くなっていた。学んでいた。
繰り返しになるが、チャックは最後にこう言う。
And I know what I have to do now.
I gotta keep breathing.
Because tomorrow, the sun will rise.
Who knows what the tide could bring?
これからどうするべきか、いまの僕は知ってる。
息をし続けるんだ。
明日は、来る。
だから息をして、昇る陽を見届ける。
潮が何かを運んでくるかもしれないじゃないか。
映画のエンディング。
彼のもとに何かが運ばれてくる。
とても素敵なエンディングだ。ご高覧あれ。
いまのコロナのご時世だから、余計に感動したのかもしれない。
世の中には、いままさに絶望の縁に立っている人がごまんといるだろう。
実際にこのコロナ禍において、自殺する人の数が増加傾向にあるという。
ひょっとしてアマゾンの担当者は、そういう人たちの一人でも多くへメッセージを届けたくて、この映画をプライム会員に無料公開することを決めたのだろうか。だとしたら、「ネ申」である!(こういう表現に僕はあまり慣れていないのだが)
ここまで読んでくださった方へ。そこはかとない感謝を。(^^) 今神栗八