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寄居町貧乏移住体験記 #19

2024.10.13(日)

 離婚を切り出された。

 きっかけは、一昨日気に入った物件の連帯保証人をお願いしたこと。「僕の考えているやり方とは違うし、今仕事を安定して続けられていない人に対して、そんなリスクが高すぎることを引き受けられない」と言われた。

 そこから、私がなぜ寄居町に行きたいのか、以前から田舎暮らしがしたかったが、東京を離れたくない夫に合わせてずっと我慢し続けてきたこと、歳とともに都会暮らしに疲れてきたことを話した。

 すると夫は「それは離婚するしかないね。だってやりたい暮らしが根本的に違うんだもの」と渋い顔で一言。

 それから長い沈黙が流れた。

 夫はやがて「ちょっとK(夫が生まれ育った町会)を歩いてくる」と着替え始めた。

 今の住居と夫が生まれ育った町会は目と鼻の先で、それがあって夫は今の住居をものすごく気に入っている。一方私は、幼い頃から育った鹿児島県から遠く離れて、東京を離れたがらない夫と暮らす限り、鹿児島に戻ることはまずできない。とても不公平だなとは感じていたが、好きな夫と暮らすために気持ちを抑え込んで我慢してきた面がある。とはいえ、私も今住んでいる街は、上京して初めて住んだ街でとても愛着があり、大好きでもある。こうした複雑な思いが、寄居町への移住をきっかけに顕在化した。

 夫を散歩に送り出す瞬間、玄関で思わず涙がこぼれた。「ごめんね。好きで困らせることを言っているんじゃないんだよ」

 普段無表情な夫が涙を流した。「今泣くなんてずるいよ。君が泣くと泣いちゃうじゃないか」

 玄関で「そんなにあなたを悲しませるなら寄居はあきらめる」と伝えた。夫は「あきらめなくてもいい。時間をかけて、少しずつ寄居を知っていけばいい。何かのイベントの際には僕も一緒に行ってもいい」と言ってくれた。
 田舎嫌いな夫が、「寄居に一緒に行ってもいい」と言ってくれるとは思わなかった。

 「ありがとう」と言って、階段を降りていく夫を見送った。(今ここ)

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