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#20. 共に創るデザインクリエイター_本多達也

本人提供

名前
 本多 達也
職種
 デザインクリエイター
備考
 「Ontenna」や「エキマトペ」など、耳の聞こえない聾者(ろうしゃ)の方達に音を届けたいという思いの込められたプロダクトを制作しているデザインクリエイターです。現在は、デンマークデザインセンターという国営の機関で、デザインについて研究されています。インタビューでも異なる感性や特性を持つ方とのコミュニケーションについてたくさんお話ししてくださりました。

1. 一日の流れ


一日の流れ

 ── 本日はお忙しい中お時間を作っていただきありがとうございます。さっそくですが、お仕事がある日の1日の流れを教えてください。

 そうですね。今日は、7:00に起きて8:00から日本のミーティングがあって、今このインタビューを10:00からやっていますが、11:00くらいには徒歩で15分くらいのオフィスに移動して仕事を始めますね。お昼はデンマークの方達と仕事をして、夕方16:00とか17:00には仕事が終わって家に帰ります。今日こちらでは、クリスマスパーティーの予行パーティーみたいなものを夜やるそうです。今日に限らず、コアタイムは月曜の最初だけで対面のミーティング以外は基本労働時間というのは自由になっています。リモートワークであったり、出社してもだいたいみんな夕方16:00くらいには自宅に帰って家で仕事をする人も多いですね。ちなみに、日本とは8時間の時差があります!

2. 現在について

DDCの仲間たち

── 現在のお仕事について教えていただきたいです。

 そうですね。学生の頃から研究内容として続けてきた「Ontenna」をどのように世界の人に展開するということで、デンマークに学びに来てます。「Ontenna」は、音を振動や光に変えたりして、聴覚障害者の人に対して音を届けるプロダクトになっています。また、駅の音をAIを用いてオノマトペで伝える「エキマトペ」というプロダクトも開発していて、現在JR上野駅に設置させてもらって実証実験しています。

── そうなんですね!なぜ世界に展開していくという目的で、デンマークを選んだのでしょうか?

 デンマークはデジタル大国と呼ばれていて、デジタル先進国なんですよ。色々なものがデジタル化されていて、デジタルで人々のウェルビーイング(※幸福度)を高めているんです。その中でもデンマークデザインセンター(DDC)という国営のデザインコンサルファームがありまして、現在はそこに所属しています。デンマークでは国の中にデザインを実践する組織を持っていて、彼らが国のデジタルデザインの部分を統括しています。ここでは、デザインがどのようにこの社会を作り出すことに寄与しているのかというのをテーマに、日々いろんなプロジェクトが行われています。そこに参加させてもらって学んでいるというのが現在となります。

── DDCで本多さんはどのような取り組みをされているのでしょうか?

 DDCは基本的にデンマーク国内の取り組みが多いのですけれども、国際的な取り組みもたくさんしています。まだここに来て間もないので、具体的にどんなプロジェクトがあるのかはまだ把握しきれていませんが、そういった国際的な取り組みの方にも参加して学びたいなと思っています。

3. デンマークと日本の違いについて

デンマークのハロウィン

── デンマークに来て日本との働き方であったり環境の変化で感じたことはありますか?

 まだ慣れていないのでこれからというところもありますが、コミュニケーションはもちろん言語も違いますし、伝えるということに関して大変だと思うことも多いですね。
 一番違いを感じたことは、デンマークの人達は「なんのために生きているのか」というのを考えている人が多い印象を持ちました。国全体として、所得格差も低くみんなが同じくらいというイメージで、お金をたくさん稼いでいる人は社会に還元するみたいな風潮を感じます。税金も半分だったり、所得税も約半分の55%だったり、消費税も25%なんですよ。高い税金を払ってみんなが等しくという社会構造を作っていこうという意識を国全体で感じます。

── そうなんですね。どういった時にそのような意識を感じますか?

 働いている時にもそれをすごく感じますね。どうやったら幸せになれるか考えながら働いている人が多いと思います。議論の節々にも現れていて、何か考える時もお金ではなく、どうしたら環境を良くしていくことができるか…..。
 昔は「ヒューマンセンタード」(※)という言い方をしていましたけど、今はもう少し地球だったり環境みたいなものに対して何ができるのか、環境中心設計みたいなのが、デンマークではキーワードとしていろいろ上がっていますね。人間中心にしすぎた考え方を改め、現在はサステナビリティな考え方が求められています。街を見ても電気自動車もすごく普及していますし、そういった環境がすでにでき始めているかなと思います。

(※ヒューマンセンタード:デザイナー・関連開発者がどうデザインするかを決めるのではなく、ユーザーがどのように製品やサービスを使うかによって、どうデザインするかを決めることを示します。)
参照↓

── そういった考え方を持った上で、議論やものづくり、デザインなどを考える時は具体的にどのような観点で考えているのでしょうか?

 どうやって社会のために、というのが議論の中心になっていて、社会(Social)・環境(Environment)・テクノロジー(Technology)…。この三つを軸に、「どうやって社会を支えていくか」「どうやって環境を守っていくか」「どうやってテクノロジーでより良く変えていくのか」を常に話し合っていますね。

── お金のためじゃない働き方というのは、とても素敵な考え方だとは思います。一方でお金があった方が幸せという考え方もあると思うのですが、そこはどう思いますか?

 社会貢献のためにという考え方は、これからの社会でとても大事だと思っているんですよね。ただこっちに来て初めて知ったのですが、実はデンマークでは、若者のメンタルヘルスが問題になっているんですよ。デンマークでは、何をしてもある程度幸せと感じるようになってくると、自分はどのように生きるのか、なんのために生まれてきたのかを考えるようになるそうなのですが、それを考える時間がとても多いんです。その過程での若者のメンタルヘルスが現在、社会的問題になっていることも考えると、単純にお金持ちになりたいといったビジョンを掲げる方が、実は単純に生きられるのかなとも思ったりすることもあります。ただ、一方で日本もまだ目に見えてきていないだけで、お金ではなく社会のためにという姿勢は徐々に出てきていると思っています。
 また、SNSとかの影響もあって人と比較してしまうということが無意識に起こっているように感じます。デンマークは特に顕著で、日本の若者もそうなってしまっているところもあると思うのですが、DDCでも子供のメンタルヘルスに関する取り組みがあるため、そういった考え方の違いによる課題などもこっちにいる間に見られたらいいなと思っています。

4. クリエイターとして大切にしていること

── クリエイターとして大切にしていることなどはありますか?

 今も取り組んでいるのですが、「共創」というところを1番大切にしています。僕らは、「デザイナー」と「ユーザー」の関係や「作る側」と「使う側」という関係ではなく、使う当事者と一緒になって作っていく「共創」というプロセスを大切にしています。
 実は、共創デザインというのはデンマークから生まれた考え方なんですよ。一緒に作ることによって、これまでに気づかなかったところでの気づきとか、デザイナーだけが考えただけでは生まれなかったものが見つかるというのが共創の魅力だと思いますね。
 「Ontenna」も「エキマトペ」も実際に聾者(ろうしゃ)の方や聾学校の子供達と一緒に作ったんですよ。そういう当事者と一緒に作っていくということを常に大事にしています。

──「共創」という考え方とても素敵ですね。「共創」がプロダクトにもたらす効果というのはどんなものがあるのでしょうか?

 全ての人に対して新しい価値観を届けることができることだと思います。「Ontenna」も聾者の人と一緒に作ったんですけど、どうやって音を感じたいかというのは、耳が聞こえる人の感覚とそうでない人の感覚では全然違うので、自分にはない感覚をどうやって近寄らせていくのかというのは当事者の声を聞かないといけないと思いました。「共創」によってできた「Ontenna」は、耳が聞こえている人にとっても新しい臨場感を増したり、新しい感覚を生み出せるインタフェースになっているんですよ。
 同じように、「エキマトペ」も駅の音を感じたい子供達と一緒にアイデアを出して作りました。駅の音を聞きたいっていうのは、普通に過ごしていたら思いつきもしないことじゃないですか。しかし、「共創」によって作り出した「エキマトペ」は、実は耳が聞こえる人にも「アニメチックで楽しい!」とか「面白い!」とか反応をしてくれたり、SNSでも多くの人に興味を持ってもらえて、16万近く「いいね!」してくれたんですよね。

── それはすごいですね!実際に「共創」によって作り出したプロダクトに対してどのように思いましたか?

 面白いですよね。最初は耳の聞こえない方達に音を届けるために制作を始めたものが、共創によって、彼らのためだけではなく、実はいろんな人に対して価値あるものになっていて、僕らの新しい感覚だったり、発見にも繋がったりしている。要は、当事者以外の人の楽しさにも繋がるというのがとても魅力的で面白いなと思います。
 やっぱり私達は今はまだ世の中に無いものを見たいじゃないですか!それを見にいくため・作り出すためにも「共創」というのは大切なことだと思います。

── 今はまだ世の中にないものを見たい、ワクワクしますね。「共創」において、聾者の方とのコミュニケーションはどのようにとっているのでしょうか?

 私の場合は手話を勉強していたので、手話でコミュニケーションをとっていたのですが、口を大きく開けたら読み取ってくれたり、筆談などをしてコミュニケーションをとっていました。
 私も大学時代まで、耳が聞こえない人と出会ったことがなかったんですよ。大学一年の文化祭で初めて耳が聞こえない人に出会って手話を初めて見ました。率直に、手話って所作が美しいなって思ったんですよね。本当に手話を使って会話している人もいるんだという新鮮で、不思議な感覚でした。そこから、彼らにも音を届けたいという想いのもと卒業研究で「Ontenna」の制作を始めました。
 聾者の方は、話せない分表情がとても豊かで、口の動きだけで読み取れるのも、僕たちには無いことなので凄いなって感じました。あとは、電車とか別れる時とかもドアが閉まっても彼らはまだ会話できるんですよ。ドアによって僕たちは声が届かないですけど、彼らはそれでもまだ繋がれるんです。そんな何気ない瞬間にも新しい発見というか、魅力がたくさん詰まっているんです。

── 本多さんは外国人の方や聾者の方など、自分とは育ってきた環境が異なる人と交流をする機会がとてもあると思うんですけれども、意識していることや大切にしていることはありますか?

 聞くことですかね。相手がどのように思っているのか、何に興味があるのか、というのをちゃんと聞くというのは意識していますね。些細な会話でいいんですよ。週末何していたとか、どういうものに興味があるとか、どういう食べ物が好きなのか……。なんでもいいんですけど、興味を持っているというのを相手に意図的に示すというのが大事だと思います。
 国も違うといろいろな人たちがいます。でもあなたに興味があるということや、今困っていることというのをちゃんと伝えると、みんな親切に返してくれます。逆に、何も言わないと興味がないと思われてしまいコミュニケーションは難しくなりますね。
 例えば、「質問ある人ー?」みたいなの授業とかであるじゃないですか。仕事の中でも、プレゼンが終わったあとにそういう時間があるんですけど、必ず何かしら一言みんな質問しているイメージですね。日本人だと、そこは結構黙っちゃうことも多いのかなって思います。でもそこは、面白かったとか楽しかったとかそういった感想だけでも、まずは相手に意思を伝えるということが大切だと思います。

── 確かにそうですね。ちゃんと向き合うということがやはり大切ということなんですね!

5. 本多さんにとっての「ふつう」とは

── これからもデンマークで世界に向けたデザインの学び・挑戦があると思うのですが、本多さんにとって「ふつう」とはどんなものだと考えますか?

 そうですね。「共創」の文脈で生きてきて、誰かと一緒に作るっていうことをやってきたので、「違い」が「ふつう」じゃないかなって思いますね。違いに僕は面白さを感じるんですよね。自分と違うものを持っている人に興味を持ちますし、そういった方々と「共創」をしていきたいなって思いますね。だから、「違い」をそれぞれ受け入れ合うための定義というのが「ふつう」なんじゃないかなって思っています。

──「違い」があるからこそ、自分にはない新たなものを生み出せるものもあるということですね。本日はありがとうございました!

日本とは全く違うデンマークの日常

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