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二人なら 「アンドレ・デジール最後の作品」備忘録

 リーディング公演での再演を祝して、初演の時に感じたことを書きました。ちょっとだけネタばれ。  20世紀初頭に不慮の死を遂げた大画家アンドレ・デジール。天与の才を持ちながら母親を亡くしてから絵を描くことができなくなっていたエミールと、芸術を愛するが自身の描く才能には見切りをつけたジャン。 運命に導かれるように出会った二人は、共鳴し、一人では到達できない芸術の高みを目指していく。贋作ビジネスに手を染めた二人はデジールの「最後の作品」を巡って、破局を迎えてしまう。 蒼ざめた海

    • 誰かを傷つけてでも、かなえたい夢がある。~備忘録『ビリー・エリオット』~

       炭鉱不況にあえぐ町には怒りのエネルギーが溜まっています。炭鉱を閉鎖しようというサッチャー政権への怒り。ストライキを鎮圧にかかる警察への怒り、スト破りをする「裏切者」への怒り、何よりも、先行きの見えない日々への怒り。  怒りは暴力へと繋がり、ビリーの兄トニーはナイフを手にします。警官に両足を折られた仲間、報復の連鎖。  怒りは荒んだ心に繋がります。町の人たちは子どもたちを含め、どこか投げやりで、無気力なのでした。ビリーもまた、母亡き後、父からの愛情を確信できず、認知症の祖母

      • 備忘録:今年観た舞台2023年

         20日に観劇おさめだったので、今年のまとめです。  今年、こんなに観る筈じゃなかったんですけど……  建て替えられる前の帝国劇場を味わっておきたかったのと、日生劇場で一度グランドサークル席に座ってみたかったのと、観劇友だちの代打で行ったのと……振り返れば17本。  でも、リピートはしなかったので、無我夢中になるほど没頭した作品はなく、良く言えば落ち着いた観劇ライフでした。(「アンデレ・デジール」と「鋼の錬金術師」は円盤買ったけど) 今年観た舞台を心に残った順に並べてみます

        •  備忘録:今年観た舞台2022年

           12月も半ば、今年の観劇は終わったので備忘録を。  去年、一年間に観た舞台の備忘録を書いた時、「一年間でこれだけ観ることは二度とないと思うので」とか言った記憶があるのですが……2022年も13作観てしまいました。あれ、おかしいな? どうしてこうなった?   「舞台という表現形態が失われてしまうかもしれない危機感」は変わらずあるので、一期一会の出会いを求め、応援の気持ちもあるのです。パンフレットも必ず買います!  と言うことで、今年観た舞台を心に残った順に並べてみました。

          お値段以上に活躍中

           2022年、買って良かった物はヒンジキャップ。ドレッシングやお酢などガラス瓶についている、片手でパチンと開けられる蓋です。  五年ほど前から梅仕事にはまっています。カリカリ梅や、梅シロップ、梅サワー、干さない梅干し(梅漬け)などなど。お酒は飲めないので梅酒は作りません、残念。  出来上がったシロップやサワーを保存する際の容器に、いつも迷っていました。梅は酸性で、お酢もかなり使うのでプラスチック容器は避けたい(何か溶けだしてきそうで)けれど、安いガラス容器は食品用ではなくて

          お値段以上に活躍中

          静かな陽だまりに残された希望(マヤ・ルンデ『蜜蜂』

           アインシュタインが「ミツバチが地球上から消えたら、人類はあと4年 生きられるだろうか?」と言ったというのは都市伝説ですが、著者のマヤ・ルンデは、その言葉をモチーフに「蜜蜂」を書いたと思います。  物語の舞台の一つは2098年の中国、蜜蜂が死に絶えた世界です。  主人公のタオは一日十二時間に木に登り、厳しい監視とノルマの中で人工寿分の作業に従事しています。と言うか、大多数の人にとってそれ以外に仕事はないのです。8歳なれば子どもたちも動員され、もちろん教育を受ける機会はありま

          静かな陽だまりに残された希望(マヤ・ルンデ『蜜蜂』

          ミセス・ハリスは「捨てない」し「貰わない」と思う

            映画『ミセス・ハリス、パリへ行く』を観ました。原作はポール・ギャリコの『ハリスおばさんパリへ行く』です。素敵な部分もたくさんあったけれど、どうしても納得できない部分があって、備忘かつもやもやした気持ちの消化という矛盾した気持ちで記しておきます。  映画と原作の結末までネタバレするので、原作未読、映画未視聴の方は回れ右! でお願いします。  さて、映画の基本的な流れは原作と変わりありません。  クリスチャンディオールのドレスに魅せられたロンドンの家政婦ハリスがパリへ向

          ミセス・ハリスは「捨てない」し「貰わない」と思う

          備忘録:ミュージカル 『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』10月10日マチネ&配信

           人生初観劇遠征で、「フィスト・オブ・ノーススター ~北斗の拳~」の福岡大千穐楽に行って参りました。(これまで、「レ・ミゼラブル」の松本公演、「フィスト・オブ・ノーススター ~北斗の拳~」初演の名古屋公演に行ったことはあるけれど、どちらも、普段仕事に行くより遅い時間に家を出て、普段仕事から帰って来るより早い時間に戻って来たから、遠征とは言えない)  東京で複数回観て、配信も昼夜観て、かなり満足したので、福岡まで行くか、かなり迷ったんですが、行って良かった!   いやー、凄いも

          備忘録:ミュージカル 『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』10月10日マチネ&配信

          備忘録:ミュージカル 『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』9月30日マチネ

           公演回数が少ないためか、私が観劇した回は毎公演が千秋楽のようなテンションでした。演者も観客も。  千秋楽公演は、演者のテンションが上がり切っていて、コップ一杯の水が表面張力でギリギリ溢れずにいるような緊張感があります。29日ソワレがちょっとそんな感じで、ヒヤリとする場面もあって、(そんな中で平常心の方もいらして、流石)本当の千秋楽はどうなってしまうのか? ちょっぴり心配していました。  蓋を開けてみたら、充実していながら浮き足だったところのない素晴らしい東京千秋楽でした。

          備忘録:ミュージカル 『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』9月30日マチネ

          備忘録:ミュージカル 『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』9月27日マチネ

           3回目の観劇にして、ようやく思い出補正フィルターが薄れてきたのか、初演をブラッシュアップしての再演ということが感じられました。演出上の創意工夫、演者の深化やスキルアップがあって、舞台が日々進化していくのは、この作品がまだ若いからなのでしょう。  照明が美しく、洗練されたヴィーナスの森。中国人ダンサーの参加によって、よりダイナミックに魅せる拳王ダンサーズ(その中で負けじと存在感を放つシンも凄い)と、彼らを圧倒的存在感で支配するラオウ。今宵も福井ラオウは素晴らしゅうございました

          備忘録:ミュージカル 『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』9月27日マチネ

          備忘録:ミュージカル 『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』9月26日ソワレ

            ダブルキャストで初めての方もいるけれど、なんと言っても再演二日目なので、ドキドキそわそわの気持ちが落ち着いて、舞台を楽しめました。   今日は一つ気づいたことがあります。心の翼(リプリーズ)で、ケンシロウとフドウの旅立ちを見送る村人たちは、初演の時は女性だけでした。(次のシーンの拳王軍の為に出払っているという裏事情があったとしても)、暴力の時代、男性が戦いに行っているのか、死んでしまったのかで、女性と子どもしか村には残っていないという設定だったと思います。  再演だと一

          備忘録:ミュージカル 『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』9月26日ソワレ

          備忘録:ミュージカル 『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』9月25日ソワレ

          『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』再演の初日を観劇してきました。やっぱり、この作品、好きだなあ。作り手たちの愛と本気が詰まってる。観ると(生きていて良かった)と思います。    思い返せば初演を観たのは公演が始まって間もない昨年の12月11日、開演前の客席は空席も目立ち、半信半疑の空気が流れていました。それを一瞬で覆したのはリュウケン演じる川口さんの「北斗神拳!」の一声。恐れも、てらいも、躊躇いもない声が、観客を一気に物語の世界にひき込みました。私はあの瞬間に、公演

          備忘録:ミュージカル 『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』9月25日ソワレ

          備忘録:アシナガバチの巣を駆除した話

           実家の母がアシナガバチに刺されてしまい、巣を駆除しました。その顛末記。ハチや巣の写真があるので苦手な方は、ご注意ください。 最初にハチが目撃されたのは5月です。巣は500円玉くらいの大きさで、ハチもシラスくらいのサイズだったので、放っておきました。それがだんだん成長し数も増え、巣も大きくなっていきました。 普段は巣の側で植木に水をやっていても向ってくることもなく、何となく共存していたのですが、その日はハチも気が立っていたのかもしれません。運悪く黒い服を着た母が巣の近くに

          備忘録:アシナガバチの巣を駆除した話

          『ペンダーウィックの四姉妹』シリーズの5巻『The Penderwicks At Last』について、だらだら語ってみた

          注意!!  ジーン・バーズオールの『ペンダーウィックの四姉妹』シリーズの5巻『The Penderwicks At Last』について語ります。ばりばりネタバレするので、「4巻まで読んだ」&「5巻の内容が気になるからネタバレOK」というレアな方向けです。  気持ちのおもむくままに書いたので、長いです。  5巻『The Penderwicks At Last』の個人的なお薦めポイントは ・四姉妹&取り巻く人たちの近況報告(4巻からなんと9年後が舞台) ・舞台は懐かしのアラン

          『ペンダーウィックの四姉妹』シリーズの5巻『The Penderwicks At Last』について、だらだら語ってみた

          The Story of a Master of Honey: Volume 1 - Awakening of the Silver Bee

          The Story of a Master of Honey: Volume 1 - Awakening of the Silver Bee Author:Kurina Kobayashi Illustration:Munashichi Publisher: Industrial Publishing Center Release Date: 2016/9/15 Story Introduction This is a story of a "master of honey"

          The Story of a Master of Honey: Volume 1 - Awakening of the Silver Bee

          『フィスト・オブ・ノーススター 北斗の拳』ダブルキャストに関する覚書 後編

           ラオウとユリアは、ダブルキャストで役作りが明確に違いました。ダブルキャストの組み合わせによって4通りの世界観がありそうです。 ① ラオウ(福井晶一さん、宮尾俊太郎さん)  カリスマ性のあるパワー系の覇王(福井ラオウ)と、冷徹で優美な魔王(宮尾ラオウ)でした。人を人と思わず虫けらを見るような宮尾ラオウの眼差しと所作の美しさ、圧倒的な歌声でひれ伏さずにいられない福井ラオウ。お好みのラオウをお選びください。  福井ラオウはたぶん黒馬と相思相愛だし、心酔する部下もいそうですが、宮

          『フィスト・オブ・ノーススター 北斗の拳』ダブルキャストに関する覚書 後編