「日本株の需給見通し」について考えてみました
日本株の需給見通し
日本株の上昇が止まりません。11月17日の日経平均株価は2万6014円、前日比で107円上昇しました。終値で2万6000円を上回るのは1991年5月以来約29年半ぶりとなります。
これは、新型コロナウイルスのワクチン開発で景気が回復するとの期待から前日のNYダウ工業株30種平均が最高値を更新し3万ドルに迫った(その後24日に3万ドル台乗せ)ことで、投資家が運用リスクを取る姿勢を強めたことが主因といえます。今回のnoteでは、日本株の主要投資家である外国人投資家、日銀、投資信託等の売買動向から見た日本株の需給見通しについて考えてみました。
今回のメモでお伝えしたいのは以下の3点に要約できます。コロナウイルスワクチン開発の成否、世界経済動向の影響を無視することはできませんが、日本株の需給は少なくとも改善に向かうと判断できそうです。
①海外投資家がアベノミクス始動時のような大幅な買い越しに転じるかどうかかは外部環境次第であるが、売り越し余地は限られる。仮にコロナウイルスワクチン開発が進展し世界景気回復に対する期待が高まれば、景気敏感株の比率が高い日本株に対する海外投資家の買い越し余地が多分にあるだけに本格的な買い越しに転じ株式需給に対する好インパクトが期待できる。
②日銀のETF購入はいずれ終了するが、株価が上昇し含み益が拡大することにより出口戦略におけるマーケットへの影響を極力抑え、保有残高を減らす選択肢が増えている。
③業績の回復、資本効率意識の高まりなどから自社株買いが増加に転じる。
まず、外国人投資家の日本株売買動向を見ていきたいと思います。なぜ、最も注視すべき投資主体かというと、その売買比率が東証全体の60%以上に達しており上昇相場での株価形成に多大な影響を及ぼしているためです。例えば、小泉政権の規制改革、安倍政権によるアベノミクスに対する期待から、その時期に外国人投資家による日本株投資が盛り上がりました。安倍政権発足直後の2013年、外国人投資家の日本株投資は実に15兆円強の買い越し(東証/投資主体別売買動向・現物株式、以下同様)となり、同年の日経平均株価も50%以上の上昇となったほどです。
2015年以降、ここ数年は世界経済・企業業績の底入れ、見通しへの明るさが広がった2017年を除いては外国人投資家の売り越しが続いていました。2015年1月~2020年10月の売り越し額は15.2兆円(今年1~10月5.3兆円)となり、2013~2014年の買い越し額にほぼ匹敵します。先物の売買を勘案しても同じような傾向を確認できます。この事実は、外国人投資家によるさらなる売り余地がなくなってきていることを示しているとみられます。今年11月には第2週までの累計外国人買い越し額は7400億円強となりました。年末に買い越すアノマリーの存在も知られていますのでこの趨勢だけで判断するには時期尚早ですが、明らかに潮目は変わってきています。
次に、日本株の需給を考えるうえで日銀のETF(上場投資信託)購入も重要なファクターになります。すでに2010年にスタートしてから10年が経過。金融市場や経済の安定を目的とし、この間順次購入額が引き上げられました。今年3月の日銀政策決定会合では年間購入額の上限が従来の6兆円から12兆円にも高まっています。直近の保有残高(簿価)はというと35兆円、東証1部時価総額の約6%にも達しています。時価ベースでは日本株の最大投資家であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)にほぼ並んできてます。
主にTOPIX連動型のETFを購入することから、東証1部上場銘柄の株価形成に絶大な影響を及ぼしています。特に、TOPIXが一定以上下落した時の後場に買いを入れるというのがコンセンサスで、株価下落時の下支え要因となります。日銀によるETF購入では継続期間、保有するETFの処分が焦点です。
継続期間に関しては、東証1部の時価総額対比で10%程度までは買い続けるという見方も出ています。今年3月に購入枠の上限を引き上げた直後、3~4月の購入額はそれぞれ1兆円以上となりました。ところが、マーケットが回復、安定してくると今年8月以降、月間購入額は2000億円強~6000億円弱にとどまっています。足元の株価上昇で継続期間に余裕が生まれている点には要注目です。当面、東証1部上場銘柄の株価下支え要因とみてよさそうです。
さらに、「証券アナリストジャーナル」(11月)で日銀の有力OBは保有ETFの出口戦略に関する見解を示しています。現在のように日銀のETFに含み益がある時期には割引価格で売却することが可能で、その恩恵を前提に時限的な売却制限をすれば相場への下落圧力を一定程度防止できるというのです。専門家の推計によると、日経平均株価2万6000円を前提とすると日銀ETF含み益は約10兆円に達します。出口戦略には注意が必要ですが、マーケットへの影響を極力抑え、保有残高を減らす選択肢が増えてきていることは株式需給にとっては朗報と捉えられます。
外国人投資家、日銀以外で注目されるのが自社株買いと投資信託です。自社株買いは、コーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードの導入をきっかけに資本効率に対する意識が高まったことから、2019年度には過去最高の取得枠(約10兆円)を記録しました。2020年度第1四半期はコロナショックの影響で大きく落ち込みましたが、その後回復しています。今年4~6月に東証1部上場企業が設定した取得枠は前年同期に比べて9割減の約3800億円。ところが、続く7~9月には約4600億円、10月以降はさらに増加しています。株式需給の下支え要因として期待できます。
一方で、投資信託に加えて個人についても売り越し基調が継続しています。投資信託に関してはアクティブファンドからの大規模な資金流出が続いていることが影響しています。また、高値警戒感から足元では個人の売り越し額が大きくなっています。
最後に、日本株需給の行方を左右する外国人投資家が日本株を上値を買うほど大きく買い越してくるための必要条件3点を付記して今回のメモを終わりたいと思います。
①主要中央銀行による緩和的低金利政策が継続しインフルエンザワクチン開発に対する期待の高まりが続く。
②来期以降の企業業績の回復確度が高まり割高感が薄れるようなレベルまで予想PER(株価収益率)が低下する。
③コロナウイルス禍で停滞したROE(自己資本利益率)引き上げなど個別企業の企業価値向上への取り組みが回帰するだけでなく進展する。
今回の参考資料は、「東証・投資主体別売買動向」、「証券アナリストジャーナル」(11月)、「日銀HP・ETFの買入れ結果(月次)」などです。今年7月11日付noteで作成した「自社株買いと株式投資の留意点」も参考になります。自社株買いについて知識を深めたい方はぜひ読んで下さい。
Malon, 11. 26. 2020
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