「GPIF、日銀に学ぶ長期投資のヒント」について考えてみました
GPIF、日銀に学ぶ長期投資のヒント
今回のnoteではGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)、日銀の運用・投資スタイルを参考に長期投資で実績を残すヒントを考えてみました。なぜ取り上げたかというと、次の事実から長期投資での「分散投資」、「時間分散」の重要性が高まったと判断したためです。
①長期投資による資産形成の重要性が指摘されるなか、GPIFは20年弱の運用で巨額の運用益を実績として残している。
②コロナウイルス禍で大きく主要国株価が調整した昨年3月時点では、日銀の保有するETF(上場投資信託)の含み益がなくなる局面を迎えた。ところが、慎重な購入姿勢も手伝って日銀の購入したETFは足元の株価上昇メリットを享受できている。
まず、GPIFは2001年度から市場運用をスタートさせています。2月上旬に公表した四半期報告書によると昨年末の運用資産残高は177兆7030億円で過去最高となりました。2020年度4~12月の収益は27兆7000億円強。2001年度から昨年末までの累積運用収益も85兆3000億円強、年率リターンに換算すると3.37%に達しました。今年度の運用でプラスリターンを確保すると、20年間の運用成績は13勝7敗となります。
GPIFの年金資産運用での特徴は以下の3点に要約できます。
①「クジラ」と呼ばれるほど巨大な世界最大の運用資産規模を誇る。パッシブ運用が主体で、内外の株式・債券に分散投資する。
②基本ポートフォリオが決められており、この資産配分の目安から資産構成比が乖離した場合にはリバランス(資産配分の再調整)を実施する。
③長期的に年金資産の実質運用利回り(年金資産運用利回り-名目賃金上昇率)を最低限のリスクで確保することを目標とする(2020~2024年度目標)。
資産構成からすると国内債券、国内株式、外国債券、外国株式に各25%投資し、それぞれに±6~±8の乖離許容幅が設定されています。また、オルタナティブ投資(インフラ、プライベートエクイティ、不動産その他への投資)は資産全体の5%を上限としています。
一方、主要海外年金の資産配分を見ると、株式とオルタナティブ投資の高さが目立ちます。カリフォルニア年金基金(CalPERS)の前年度末資産構成比は、株式60%、債券28%、その他12%。また、このほかの代表的な海外年金ではノルウェー政府年金基金-グローバル(GPF-G)が70%の株式を保有しています。運用成績はというと、過去10年で年率10%前後と株式など高リスク資産の構成比がGPIFと比べて高い分だけ相応の運用成績をあげています。
GPIFの分散投資で参考にしたい長期投資のヒントを2点紹介したいと思います。最初のポイントは、3%強の年率リターンでも長期間運用していくと複利効果で元本を大きく増やすことが出来るという点にあります。換言すると、目標リターンの高くないポートフォリオでも資産構成を定めリバランスしながら長期投資すれば、それなりの成果に繋がることを示しています。20~30歳台の若手資産形成層には、海外年金基金に見られるような株式重視型の分散投資が有利だということはいうまでもありません。
2つ目のポイントは運用の主体がパッシブ運用だという点です。長期運用ですので当然のことながら諸コストの抑制が焦点となります。パッシブ運用はその有効な手段となります。一般投資家がGPIFのようなバランス型の資産運用を目指すのであれば、代表的な投資信託にはグローバル型、レバレッジ型、リスク抑制型などのファンドがあります。
ただし、長期投資の視点からすると、ノーロードで信託報酬の安いファンドがお勧めです。例えば、株式ETF・債券インデックスファンドに投資し株式重視か債券重視かを選択できるようなファンドを選択すべきと考えます。よく、バランスファンドでは機動的な資産構成の変更などが話題になりますが、急激な投資環境変化にはどうしても資産構成の見直し・修正が後追いになります。このため、期待を裏切るファンドがよくある点にも注意が必要です。
ところで、GPIFは2017年からいち早くESG(環境・社会・ガバナンス)指数に連動する投資を始めていることも注視できます。超長期の投資で安定的な収益を上げるためには金融資本市場と経済の持続的な発展、成長が欠かせません。そのためにも、環境や社会問題を解決することが不可欠と考えています。既に、国内株式投資に占めるESG投資の割合は前年度末で11%強に拡大しており、他の主要年金基金や主要運用会社の運用にも影響するだけにその動向が注目されています。
次に、分散投資と対極にあるのが集中投資です。その代表例が日銀によるETF購入です。価格変動の大きい株式を一定条件の下で時間を味方につけながら購入する日銀の時間分散にも長期投資の秘訣がみてとれます。参考になりそうな投資手法を整理してみました。
日銀は2010年末から金融市場や経済の安定を目的としてETFの購入をスタートさせ、その後10年間で順次購入額を引き上げます。昨年3月の日銀政策決定会合では年間購入額の上限を従来の6兆円から12兆円に増額しています。直後の3~4月の月間購入額はそれぞれ1兆円を上回りました。ところが、その後の月間購入額はTOPIXの回復もあり趨勢的に減少傾向をたどり、昨年末から年初には2000億円程度にとどまっています。とはいえ、現在の保有ETF時価総額は50兆円規模で東証1部時価総額の7%強に達し、GPIFを上回る最大の日本株保有主体となっています。
さらに、日銀が10年間に購入したETFの含み益は12~13兆円(日経平均株価レベルで損益分岐点は2万1000円程度)に達し、およそ30%強のリターンを残しています。株式投資の期待リターンからすればずば抜けた投資成果とはいえませんが、低金利時代にはそれなりの成績ではないでしょうか。
日銀のTEF購入方法としては以下の特徴を指摘することが出来ます。
①2016年7月の追加緩和により買い入れ枠が年間6兆円(従来3兆3000億円)に増額。2018年8月に主にTOPIX連動型ETFを購入する方法に変更。昨年3月には年間購入枠の上限を12兆円に拡大。
②買い付けは後場。購入ルールは開示されてはいないが、午前の取引終了時点でTOPIXが前日比で0.5%以上下げることが条件とみられている。
また、その注目点は次の3点に要約できます。
①2010年末、日経平均株価1万円前後の水準からスタートし午前の取引終了時点で株価が下落しているタイミングで後場に購入する。
②年間・月間購入額にバラツキはあるが、コツコツと時間分散して購入。
③ETF購入金額が大きいだけにわが国の株式需給に対するインパクトが大きい。
日銀の保有ETFの含み益が拡大していることは、時間を味方につけて値下がりした時を狙ってETFに買いを入れるという投資戦略が有効であることを示しています。行動経済学は、群集心理による投資行動に巻き込まれることで引き起こされる躓きを指摘します。時間分散は、集中投資に潜むこうしたリスクを回避することに繋がることも長期投資での効能になります。
現在の投資環境からすると、当面株式が選好されそうです。それだけに、株式の長期投資で一般投資家が日銀のETF購入から学べる視点は、積立NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)を活用しながら時間をかけてコツコツと定額購入していくことだと考えます。
今回のnoteの参考資料は、「投資の大原則」(バートン・マキール&チャールズ・エリス著、日本経済新聞出版社)、「GPIF 世界最大の投資家」(小幡績著、東洋経済出版社)、GPIF「2020年度第3四半期の運用状況(速報)」などです。なお、今回のメモでは長期投資で運用資産を増やすヒントを探り、資産寿命を伸ばすアイデアには触れませんでした。この点に関しては合同会社フィンウェル研究所代表・野尻哲史氏の「日本人の4割が老後準備資金0円」(講談社+α新書)と「定年後のお金」(講談社+α新書)が参考になります。興味のある方には、購読をお勧めします。
Malon, 24th. Feb. 2021
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