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「ESG投資ブームは本物か」について考えてみました

「ESG投資ブームは本物か」

ESG(環境、社会、ガバナンス)投資という言葉をマスコミやメディアで見かけない日はほとんどなくなってきています。関連投資信託が人気化しその残高が大きく増えてきたりもしています。ところが、ESG投資に対する評価はまちまちでいまだ定まっていません。たとえば、ESG投資を選択すると却ってリターンが犠牲になるとするESG投資のパフォーマンストレードオフが指摘されたり、今年6月には米労働省が年金基金に対しESG投資を安易にしないようにする規制案を公表したりしています。今回のnoteではこのESG投資ブームが本物かどうか考えてみることにしました。

日本の投資マネーがこのESG投資に向かっています。今年1-9月に関連する投資信託には前年同期比13倍となる約7200億円が純資金流入し過去最高となっています。投資信託協会による今年1-9月の株式投信(上場投資信託除く)純流入額が1兆8800億円ですから、そのうちESG関連は3割以上を占めたことになります。

ESG関連の投資信託への資金流入は、特に7月以降に目立ってきています。この背景として次の2点が挙げられます。要約すると、運用・販売会社からすると設定・販売しやすく、投資家からしてもコロナウイルス禍のような不確実性が高い投資環境の中で魅力的な投資先と捉えられているということになります。

①我が国を代表する大手アセットマネジメントが相次いでESG関連投信を設定し、販売に注力した。

②世界的なESG投資への取り組みがさらに進むとみた個人投資家が株式を中心に投資先として注目し始めた。

なお、世界持続的投資連合(GSIA)によると世界のESGマネーは2018年時点で何んと30兆ドル超に達したそうです。2年で4割のハイペースで膨張しており、地域的にみると米国、日本での伸びが著しいとしています。



焦点となるESG投資の評価に関して英国有力紙はESG投資家(対象は機関投資家、コンサルタント、資産運用担当者など)の間で、投資リターンを犠牲にすることなくESG投資を行うことが定着していると報じています。ESG投資が健闘した主な理由として、①価格が下落した化石燃料への投資を控えたこと、②ESG基準がサプライチェーンや製造工程などの見直しを迫り、コロナウイルス禍に伴う危機的状況への耐性が高まった点を指摘しています。

では、英国有力紙のESG投資がリターンを犠牲にしていないとする理由にはそれが永続するかどうか疑念をさしはさむ余地がありますし、本当にESG投資がリターンを犠牲にしない有効な手段なのでしょうか。参考になるのが、以下に示した3つの視点(著名投資家の見方、米労働省による年金基金に対するESG投資規制案、一般的な投資原則)で、それぞれのポイントを整理してみました。

まず、著名投資家のウォーレン・バフェット氏(以下、バフェット氏)はESG投資に対して複雑な思いを持っています。同氏は保有する企業が利益を継続的にあげることで、それが株主利益につながると考えています。ところで、「持続的に利益をあげ続ける企業」とは顧客の問題を解決し続ける企業ともいえます。そして顧客という概念を広く捉えれば、それは社会の問題を解決し続ける企業ということになります。投資先企業が顧客・社会の問題を解決し続けることはある意味で当然の前提で、運用面でコスト増とリターンの低下に繋がりかねないESG投資をことさらに強調するまでもないといえそうです。

次に、今年6月に米労働省は年金基金が安易にESG投資をしないようにする規制案を公表しています。この規制案はESG投資への懸念を率直に記し、それぞれの解釈通知や実務通知という形ではなくよりフォーマルな形式で規制を設けるものです。この点でESG投資に抑制的な姿勢を示すものとみられています。

さらに、一般的な投資原則からESG投資をのリターンをみていきたいと思います。通常、アクティブ株式投信の経費比率はインデックス型のそれを大きく上回ります。加えて、世界的に運用資産残高が巨額になっていることからマーケットインパクトが大きくなり、結果として運用成績を悪化させてしまうリスクの高まりを指摘できます。今年7月設定のわが国を代表するESG関連株式投信の資料では「長期的に企業の競争優位性や企業価値を高める可能性」に言及するにとどめていますし、信託報酬が年率1.8%強ですからインデックス型と比べた経費率の差は歴然です。

最後に、ESG要因を加味した株式投資に対する考え方を示して今回のメモを終わりたいと思います。ESG投資のリターンに関する優位性について十分な説明が出来ないなかでは、ESGの課題をすべて関連投資を通じて解決し、超過リターンも獲得しようとする思考方法には無理があります。ESGに係る課題解決に対しては、まずは規制強化や制度の創設といった国家戦略・プロジェクトなどでの対応が優先されるべきものと考えます。もちろん、ESG投資に内在するリターンに関する疑問に答えられるような運用成績に優れたESG投資商品が生まれれば、ESG投資に賛同することは言うまではありません。

今後、地球温暖化など環境問題が深刻化しESG投資の重要性は一段と高まっていくとみられます。そこで、ESG投資による課題解決と投資リターンの両立を目指すのなら、今年9月のnoteでとりあげたインパクト投資のような株式投資商品を選択する方法もあります。今回の参考資料はバフェット氏の著書、「投資の大原則」(バートン・マキール&チャールズ・エリス、日経新聞出版社)、主要ESG関連株式投信の関連資料などです。興味のある方はご覧頂きたいと思います。

Malon, 11. 3. 2020

p.s.

本記事で20本目投稿となりました。購読いつもありがとうございます。

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