「高配当株投資に潜む落とし穴」について考えてみました
高配当株投資に潜む落とし穴
毎年、年末になると株式市場では来年の干支(えと)が話題になります。2021年は丑(うし)年です。過去の丑年、日本株パフォーマンスは良くありません。1950年以降昨年までの期間で比較すると、5回の丑年・日経平均株価騰落率(年率)は-0.05%と12支中11番目。1997年のアジア通貨危機の影響で株価が下落したことが響き、株式市場の格言にあるように「丑つまずき」というような結果となっています。2021年の丑年は過去とは異なる株式相場となってもらいたいものですが、今回のnoteでは超低金利下で注目されている我が国の高配当株投資に潜む落とし穴(リスク)について考えてみました。
高配当株が注目される要因は以下の3点に要約できます。
①現在のような先進国中央銀行による金融緩和、とりわけ超低金利政策が続く中では魅力のなくなった先進国国債の代替投資先になる。
②コロナウイルスワクチンに対する市場での期待が高まるなかでコロナウイルス禍の影響が再度懸念される局面では株価下落リスクが高まる。一般的には、高配当株は下落リスクが相対的に小さいとみられていることから投資家に選好されやすい。
③配当方針など株主還元に対してアクティビスト(物言う株主)、機関投資家からの関心が高まってきている。
ところが、高配当株投資にとって不都合な事実が確認されます。まず、我が国の代表的な高配当株指数である日経平均高配当株50指数の動きを見ていくことにします。同指数の組み入れ銘柄は日本たばこ産業(JT)、メガバンク、NTTなど50社で構成され、予想配当利回りは先月末時点で4%台後半となっています。12月18時点の同指数は今年3月の安値から約30%ほど回復しているものの、昨年末比では約10%下回る水準にあります。TOPIX(東証株価指数)が昨年末から4%上昇し、年初来高値となっているのとは異なる動きとなっているのです。
TOPIX対比でパフォーマンスが優れない背景として、次の3点を指摘できると思います。
①指数構成銘柄に銀行株のウエイトが高いなど業種の偏りが見られ、金融関連業種を中心に株価の戻りが鈍い。
②指数組み入れ対象銘柄には自社株買いに積極的な会社が多く、こうした企業の多数がコロナウイル禍に伴う財務面への影響に備えて今年度は自社株買いを見送った。
③業績が悪化する中では投資家から減配リスクが意識されやすくなり、株式需給面から見るとマイナスに作用する。
次に、日経平均高配当株50指数の動向から垣間見える高配当株投資での注意すべき落とし穴を整理してみます。要約すると、
①銀行業のような低金利が収益面でマイナスとなる業種では株価下落に伴うキャピタルロスが出やすい、
②配当と自社株買いを含めた株主還元方針とその余力が株式需給に影響する、
③景気後退局面で同指数に組み入れ比率の高い景気敏感株は総じて予想配当利回りが株価下落により上昇するうえ、減配リスクが表面化するとバリュートラップに陥りやすくなる、などです。
高配当利回りを狙った株式投資を全面的に否定するわけではありません。これまでの指摘を踏まえて、高配当株投資で失敗しないため投資戦略としては、配当金を支払えばその分株価が配当落ちをするわけで、落ち分を少しでもキャピタルゲインで埋め合わせられるような減配リスクの小さい銘柄を選択すべきです。
そのためには、
①財務体質が良好でフリーキャッシュフローが安定して高い企業群を選別すること、
②企業情報が豊富で中小型株に比べて株価変動に伴うリスクが相対的に小さい大型株から対象銘柄を選ぶこと、などがポイントとなります。
特に、株主価値を毀損させないためにはROE(株主資本利益率)が8%以上であることに加え、ROEを引き上げる事業戦略・財務戦略をとっていることが投資先の必要条件となる点には注意が必要です。
高配当株投資を勧める証券・株式ストラテジストはそのコラムで高配当利回りの厳選大型株数銘柄をNISA(少額投資非課税制度)を活用して投資する事例を紹介していました。こうした戦略もありかなと思います。できれば日経平均高配当株50指数にも採用されている総合商社のように「累進型配当」を掲げ継続的な増配を目指すとともに自社株買いも検討する方針を公表する企業を含めた方が株価のダウンサイドリスクは小さいと考えます。
今回のnoteでは、高配当株投資に潜む落とし穴とその対処方法を紹介してみました。いくら配当利回りが高くてもそれ以上にキャピタルロスが大きくなれば元も子もありません。株価はランダムウォークするもので、予期しない悪材料で株価が大きくで下落するような事態となればバリュートラップの罠にはまり込むだけになってしまいます。
よく、高配当株投資は初心者向き投資対象として推奨されています。ですが、我が国の高配当株を投資対象としてリターンを挙げることが簡単ではないことも事実です。
最後に、高利回りという点では外国の高配当株や国内外のREIT(不動産投信)などに投資する選択肢もあります。各資産に付随する投資リスクが異なる点には注意を要しますが、投資対象として検討する余地は少なくないと思います。
参考文献は、「ウォール街のランダム・ウォーカー」(バートン・マルキール著、日経新聞出版社)、「投資のプロはこうして先を読む」(馬渕治好著、日経新聞出版社)などです。加えて、今年10月に作成したnote「バリュー株に投資チャンスがあるのか」も参考になります。バリュー株投資全般に関して知識を深めたい方はぜひ読んでください。
▶︎ 「バリュー株に投資チャンスがあるのか」
https://note.com/kurimalo/n/n01463ca98390
Malon, 23rd Dec. 2020
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